転生後 序章

第2話 殺し屋人生の終わりと異世界生活の始まり

「……ん」

あれ?俺もう死んだんじゃ?

あぁそうか、ここはあの世だな。

あの世では、どうやって過ごそうか。

そう考えていたら、目の前に光が。

「うわっ!」

数秒後、俺は目覚めた。

「っ!! 」

目の前の光景は見た事ない景色だった。

洋風な建物が立ち並んでいて、エルフ、ドワーフ、獣人、俺みたいな人間、はたまた足枷が付けられた奴隷もいた。

「ここは……異世界か!」

どうやら俺は異世界転生したようだ。

「嘘だろ……何故この俺が異世界転生を……!」

目をこすっても頬をつねっても夢じゃない。

現実だ。

「マジかよ」

まずは状況を整理しよう。

クライアント、いや同業者に騙され、熾烈な銃撃戦の末、俺の甘さで負け、殺され、目覚めると異世界転生か。

意味分かんねぇ……。

そう思いながら持ち物を確認する。

銃弾が込められていない拳銃を装備し、ボロボロの防弾チョッキを着用している。

そして何故か、刺された傷口が完全に塞がっている。

あんな痛い思いをしたのに、それが嘘のように消えていた。

ナイフはというと、同業者のクライアントの体に刺さったままだ。

クソ……!

「チッしゃーねぇ。まずは武器屋に行って武器・防具調達するか」

そう思い、武器屋に行こうとしたら、路地裏の方から声が聞こえてきた。

「なぁなぁそこのお嬢さんよ。俺等と一緒に遊ばねぇか」

「お断りします」

「いいからよォ。俺等と気持ちいいことしようぜ」

「いやです!離して下さい!」

金髪ロングの少女が、3人の暴漢に絡まれている。

状況を確認してみると、その少女は白いドレスを着ていて、金髪碧眼の美少女のようだ。

まさにお嬢様だな。

次に3人の暴漢を確認してみると、2人は角が生えているのに対し、もう1人は角が生えていない。

しかも、独特な異臭を放っていた。

何なんだこの鼻に纏わり付く匂いは……。

ただの暴漢じゃなさそうだな。

そう考えていたら、少女が、

「誰か助けて下さい!」

と、助けを求めていた。

「助けを呼んだところで誰も来ねぇよ!この路地裏は滅多に人が来ないんだからなァ!」

少女に対し、暴漢たちが脅す。

よくあるテンプレか。

普通の主人公なら、真っ先に助けるが……。

俺は、元・殺し屋。

ここは敢えて助けない。

「だ、誰か……助けて下さい!!」

不利な状況でも少女は必死に、涙混じりの表情で助けを求めている。

暴漢たちは少女の腕を強引に掴む。

「ごちゃごちゃうるせー!さっさと俺等と一緒に来い!」

「い、いやです!誰か……誰か、助けて下さーい!!」

「あぁもう、うるせぇな!」

暴漢たちは少女に向かって、拳を振り下ろそうとする。

チッ、あぁもう鬱陶しい……!

すると俺は、前に進み出た。

「おいそこの金髪のお前、何かしらの報酬を貰えるなら助けるんだが」

「っ!!」

俺に気付いた少女は、死に物狂いで、

「な、何でもします!何でもあげます!だ、だから助けて下さい!!」

と、懇願する。

元・殺し屋たるもの任務は絶対に成功してみせる!

「あ?誰だお前?こいつは俺の獲物だ。勝手に横取りするなよ─」

そう言う暴漢の1人の腹に強烈なパンチを食らわした。

「なっ!!」

パンチの風圧で、壁に叩き込まれる暴漢。

「グハッ!!お、俺が話してる途中だろ!」

「お前は鬱陶しいんだよ」

「てめぇ!勝手に割り込んできやがって。何様のつもりだ!」

「あのお嬢さんが、何でもするから助けてって懇願したんだ。ただ俺は、その任務を果たそうとしていただけだが?」

「チッ人間族の分際で、生意気なこと言ってんじゃねぇー!」

3人の暴漢が、ナイフを取り出した。

チッ、よりにもよってナイフかよ。

「死ねぇー!」

襲い来る暴漢に対し俺は、ナイフを持つ腕に渾身の蹴りを食らわした。

それと共に、顔面パンチをお見舞いした。

「オ、オウロ様っ!」

「カハッ!腹の次は顔面かよ」

「次はお前の顔面潰れるくらいパンチを食らわしてやる」

俺は、脅しを掛ける。

「お前等2人も、こいつみたいになりてぇか!」

俺は魔人族二人に対し睨みながら更に脅しを掛ける。

「ヒィィィ!」

怖くなった2人の暴漢は、素早く逃げ出した。

「お、おい待てお前等!」

「さぁて、1人になったようだなぁオウロ」

「気安く俺の名を呼ぶんじゃねぇ」

「言った通り、顔面潰すレベルの威力を食らわしてやる」

「チッ覚えてろよ。今は見逃すが、今度遭ったら容赦なく殺す。分かったな?」

と、オウロが立ち上がり、闇へと消え去った。

「了解。本気でかかってこいよ」

俺は、オウロの挑発に乗っかることにした。

今度遭ったら……か。

「あ、あの……助けて下さりありがとうございます!」

少女が話しかけてきた。

「ただ俺は任務を遂行しただけだ」

「本当に感謝しています」

女の子を助けて褒められるの何年ぶりだろうか。

チッ、嫌なこと思い出してしまった。

すると、少女が言う。

「で、では、助けてくれたお礼……なんですが」

「あぁ礼か。何でもするって言ったよな」

「は、はい……そう、言いましたけど」

緊張した面持ちの少女。

何かされるのが怖いのだろう。

「俺は何もしねぇよ。ただ報酬を貰う。そんな任務だしな」

「はい……では、何が欲しいのですか?」

「ここで暮らせるぐらいの金が欲しい」

「お金……ですか?」

「あぁ、報酬は金に決まっている」

「そうですか」

少女は一旦、安堵の表情をした。

やはりか。

この少女は、邪なことを考えていた。

俺は、そんな事はしない。

「見たところお前、お嬢様らしいから結構金持ってるだろ?」

特に敬語を話しているから、完全にお嬢様だ。

「はい。私の両親が、代々受け継がれているグレイリア家ですので、お金は沢山持っています。因みにおいくら必要ですか?」

「そうだな。俺の見立てだと、宿代・飯代・武器・防具を買う為の資金込みで大体50万~100万だな」

「結構お高いのですね」

「まぁ、ここで暮らせるくらいの金だしな」

「承りましたと言いたいところなのですが、実は今そんなに持っていないのです」

「金持ちの令嬢じゃないのか?」

「私はシュルラ・グレイリアと申します。れっきとしたグレイリア家の令嬢です」

「じゃあ、何故だ?」

「……私、家出したのです」

家出……か。

何か複雑な事情でもあるんだろうか。

「小さい頃、私は冒険者に憧れて外に出たいなと思い、両親に申し上げたところ『シュルラは将来、私達で決めた男と結婚してここで幸せになるのです』と断固拒否されたのです。仕方がなくずっと家に篭りっぱなしの日々を送っていました。そんな今日、両親が遥か遠い西端の国に行かれたのです。その機会を逃さないように、私はこっそり家を出ました」

「なるほどな。だからこんな路地裏でさっきの奴等に絡まれてたんだな」

「そういうことです」

それにしても、冒険者になろうと家を離れ、この街を彷徨っていた。

この行動は、かなりの勇気と度胸がいる。

「それで、今いくら持ってる?」

「大体5万グレイくらい持ってます」

「5万か……5万あれば宿に泊まれるな」

5万……グレイ。

つまり、グレイがこの世界の単価という事だな。

「は、はい……すみません。そ、その代わり……わ、私の体で払わせて下さい」

ハァ……。

何故、か弱い少女がそんな事を言うんだ。

怯えているじゃないか。

「そんな事言っちゃ駄目だ。もっと自分を大切にしろ」

「で、でも……それしか、方法が……」

「方法ならある」

「っ!!」

言い難いが、ここはバシッと言おう。

「シュルラ、冒険者になりたいんだろ?」

「は、はい!なりたいです!」

「だったらこの俺、半崎 亮と一緒に冒険してみねぇか?」

元・殺し屋の俺が言うとはな。

でも何故だろう。

俺は、こいつと冒険したいと思ったのは。

「リョ、リョウ様と一緒に冒険……ですか?」

「良いだろ?」

「はい!!」

ってか、いつの間にか様付けで呼ばれているんだが。

「で、でも本当にそんなので良いのですか?」

「良いに決まってるさ。俺の報酬は、金と引き換えにシュルラとの冒険だ」

「嬉しい……です。助けてくれただけではなく、一緒に冒険に行くなんて」

シュルラは涙を流す。

「おい、泣くなよ」

「あ、あれ?おかしいな。涙が……止まりません」

「ここで泣かれたら困るだろ」

「仕方ないのです。ずっと孤独だった私は、冒険も一人で行くのかと思うと寂しい気持ちで一杯になり、落ち込んでいました。でも、リョウ様みたいな優しいお方と一緒に冒険すると思うと凄く楽しい気持ちで一杯になりました。私の目の前の道を照らしてくれたのは、リョウ様なのですから」

元・殺し屋の俺が、優しい……。

そんな筈がない。

残虐非道なこの俺が……。

シュルラは涙を拭い、

「これからよろしくお願いいたします!リョウ様」

と、満面の笑みで言った。

シュルラとの冒険をしていく内に、俺の心の奥底に眠っている何かが目覚めそうな予感がした。

この物語は、俺が"本当の俺"に成り上がっていく成長の記録である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る