第15話 二週間後
―ヤマト王国中部ミカワ山中―
「あ! いたいた。……大丈夫。僕は敵じゃないよ」
僕は静かに声をかけ、少しずつ近づいていった。
相手は驚いて茂みに飛び込んで逃げようとしたが、僕に敵意が無いことがわかってくれたようだ。
この山の聖域の中心、けやきの御神木の根本に立ち止まったまま、動こうとしなかった。
「ねえ、君さえ良かったら、僕と幻獣契約をしてくれないかな?」
僕は、自分の主張を無理やり押し付けないように、丁寧に聞いてみた。
返事はないがじっと僕を見上げ、品定めでもしているようだ。
そして、考えが決まったのか、もきゅーと一鳴きして僕の足元にすり寄ってきた。
どうやら僕の言葉に、イエスと答えてくれたようだ。
僕たちは円満に幻獣契約を交わした。
No.2
名:イズナ
種族:カマイタチ
属性:風
ランク:C
相性:A
旋風に乗って現れる妖怪。
出遭った者は刃物で切られたような鋭い傷を受けるが、痛みはなく、傷からは血も出ないともされる。
しかし、この小動物特有のつぶらな瞳に騙されてはいけない。
この名は、風神が太刀を構える「構太刀」から由来され、真の殺傷力は高い。
☆☆☆
「もきゅー?(キミがジョーンズくんの孫? 噂通り優しそうな子)」
「あれ? 言葉がわかるようになった?」
「うむ。うぬらが幻獣契約をしたからだ。魂の繋がりができた故に会話も可能だ」
僕が急にイズナの言葉がわかるようになって首を捻っているとクロが説明してくれた。
イズナはつぶらな瞳で僕を見上げ、クロの言葉にコクコクと頷いている。
「へえ、そうなんだ! ん? 噂って、僕のこと知ってるの?」
「もっきゅー!(もちろん! 幻獣たちの間で話は広がってるの。今はみんなキミのことを品定め中)」
「そっか! でも、君は僕を認めてくれたんだよね。ありがとう!」
「もきゅきゅ!(いいよ! キミはジョーンズくんと波動が似てるからね、気に入ったの!)」
僕たちはもう少し話をして、転移魔法陣まで戻り、家に帰った。
イズナは鎌のような腕を振って見送ってくれた。
本格的な幻獣使いとしての修行、それは幻獣契約の数を増やすことだった。
これが『幻獣使い』の格を上げることになるらしい。
つまり、契約数が増え、格が上がれば、それが信用度につながるそうだ。
上位の幻獣はそういうものも気にするらしく、下位の者に示しを付ける必要があるらしい。
幻獣の世界にも色々とあるみたいだ。
僕としては、今回の契約がうまくいってそれで良かった。
イズナを見つけるために、この山の中を二週間も探し回ったのだから、苦労も報われたというものだ。
すでに夏休みも中盤、ようやく一柱目の幻獣契約ができた。
次の幻獣探しをするために準備を整えないといけないなぁ。
☆☆☆
修行開始から二週間が経った。
ミカエラは無事に生きているのだろうか?
リーは転移魔法で半島にやって来た。
「やあ、姫。お嬢はご無事ですか?」
「うん? リーくんか。ミカは大丈夫だよ」
小高い岩に隠れながら、特殊部隊諜報員『黒影』カーリーはミカエラを見守っていた。
木の生い茂る山の中、捕まえたイノシシを焼いていて食べているミカエラを見て、リーはホッと胸を撫で下ろした。
ずっと野宿で気を張り続けているせいか、少しやつれているが、五体満足で気力も漲っていそうだ。
「お嬢が元気そうで安心しました。これまで何か危険はありましたか?」
「うーん。何回かオークたちと戦闘になったけど、楽勝だったよ。始めは、殺すのに戸惑ってたけど、今は問題ないかな? ボクが出るほどのことも無いし」
「ほっ、そうですか。姫ほどではないけど、お嬢も逞しくなったようですね」
「むぅ。ボクはか弱い女の子だよ?」
カーリーは頬を膨らませて怒ってみせた。
これには、百戦錬磨のリーも焦って狼狽えた。
「あ。いや、わ、私はそんなつもりは……」
「ニャハハ! 冗談だよ、ボクはリーくんをいじめるつもりはないよ?」
「ま、まあ、それならいいのですが」
「でも、リーくんも大変だね? オヤジがミカを見守るために特殊部隊を総動員してるんだから、ハゲ団長に怒られたでしょ? リーくんがこっちに来れるまで時間かかったよね?」
「ええ、いつものことですからね。というより、私の一番の仕事は隊長の尻拭いですから」
リーは頭をかいて苦笑いをした。
カーリーはそんなリーを見て楽しそうに笑った。
「ニャハハ! オヤジはろくでなしだから……うん? オークがミカに近づいてきた!」
カーリーは急に真面目な顔つきになって目つきが鋭くなった。
世界最高峰の天才隠密が瞬時に本気になった。
これを見て、リーもまた気を引き締めた。
ミカエラは何かが近づいてくる物音に気が付いた。
イノシシを食べる手を止め、火を消してすぐに物陰に隠れた。
神経を研ぎ澄ませ、近づいてくる足音に耳を澄ませている。
近くに二体。
少し離れて二体。
更に遠くに十体、上位個体のハイオークもいるかもしれない。
ミカエラは気配を消し、景色に同化するため呼吸を静かに整えた。
不用心にやって来た二体を声を上げる間もなく、大ぶりのダガーで喉を切り裂いた。
この二体を茂みに隠し、次の二体をおびき寄せて音もなく鋼鉄のショートソードを抜いて倒した。
「っ!? こ、これは……」
だが、ここでミカエラは異常事態に気がついた。
迫ってきていたのは十体どころではなかった。
全部で百体は超えているかもしれない。
ミカエラは、自分が完全に包囲されていることを悟った。
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