第16話 包囲
リーは上方からミカエラの状況を見下ろし、冷や汗を流している。
「な、なぜ? オークの軍勢がどうしてお嬢を?」
「これは、オークだけじゃないよ。他にもいる」
「他にも? ……そうか、『奈落の守り人』の血を持つお嬢を消したい存在、『異世界の悪魔』!」
「うん、帝国がオークを操ってる」
「だとしたら……っ!?」
リーは飛んできたボウガンの矢を弾き落とした。
「やっぱり、ボクも狙われてるね」
カーリーも同時に矢を弾いていたようだ。
直刀の短い忍者刀を抜いて、リーと背中を預けあった。
「ふぅ、こいつは厄介ですね。完全に気配を消してスキを狙っているようです。クッ、初めから私が来ていたら……」
「……ボクたちを囲んでいるのは帝国の暗部のようだね。でも、甘いよ! 影縫い!」
カーリーはクナイを影に投げ、隠れていた帝国の暗殺者の動きを一時止めた。
このスキを見逃さず、暗殺者の一人を一足飛びに突き刺した。
しかし、この無防備のカーリーを仕留めようとボウガンの矢が降り注いだ。
「ひ、姫!」
リーは、カーリーを身を呈して助けようとしたが、どうやっても間に合わなかった。
「
しかし、カーリーを包み込むように光のカベが現れた。
矢は全てこのカベに防がれ、カーリーは無傷だった。
「やれやれ、姫は相変わらず無茶をするのう」
特殊部隊魔導兵『大魔道士』クラウリーはヤギ角を持ち、長い白ひげを揺らしながら、のそのそやって来た。
枯れた老人のようだが、みなぎる魔力は周囲の空間が歪むほどだ。
「別に? ボクはじっちゃんが来るって信じてたから」
「フォッフォッフォ! 姫は嬉しいことを言ってくれるわい!」
「ちょっと、クラウリー殿! 油断しないでください!」
「ああ、大丈夫じゃよ、リー殿。ほれ、ウーゴめがとっくに始末したわい」
帝国の暗殺者たちが次々と木の上から落ちてきた。
全員心臓を一突きで仕留められている。
そして、特殊部隊戦闘員『森の王者』原人ウーゴが、血に染まった槍を持って地面に降り立った。
半裸で長身、筋骨たくましい黒色の肌で、黒い長い髪が垂れている。
「テキ、コロス。オレ、ヒメ、マモル」
片言のヤマト語を喋り、カーリーの前に跪いた。
「うぅ! ありがとー、ウゴウゴ! 頼りになるー!」
カーリーは満面の笑みで、ウーゴに抱きついた。
ウーゴは、カーリーの豊満な胸が腕に当たって、顔を赤くして鼻息を荒くしている。
「それにしても、いつの間に帝国軍が?」
「あれ? リーくん気づいてなかったの? 三日前からこいつら来てたよ?」
あっけらかんと言うカーリーにリーは絶句した。
「フォッフォッフォ! 姫に気づかれずに暗殺しようなんて、並の殺し屋じゃ無理じゃよ。隊長と入れ替わりでやって来たリー殿のおかげで、コヤツラをおびき出せたのじゃ」
「ウン、オレタチ、マッテタ」
「おい、お前ら! お嬢がやばいのに、何和んでんだよ!」
特殊部隊戦闘員『暴風の申し子』グレンが、特殊部隊軍医『マッド・ドクター』フローレンスとともにやって来た。
グレンは小柄の体格で、両手に血まみれのナイフを持ち、退却しようとした帝国兵を始末していたようだ。
「そうよぅ。あたくしたちがいなかったらぁ、応援呼ばれてたわよぅ?」
フローレンスは派手な化粧をして、カラフルなドレスに身を包んだ、男だ。
「うるさいなぁ! ボクがミカを守るんだから! ちっさいオッサンとカマオは黙っててよ!」
「キィー、この小娘! 隊長の娘だからって調子に乗らないで頂戴!」
「誰がオッサンだ! オレはまだ29歳だ!」
「ちょっと、皆さん! 低レベルなケンカをしないでください! お嬢が殺られてもいいんですか!」
「「「絶対、ダメ!!!」」」
特殊部隊の隊員たちは、副長であるリーに怒鳴られてやるべきことに戻った。
能力は高いが、精神年齢の低い隊員たちは、いつものようにリーに操られた。
☆☆☆
ミカエラは、オークの軍勢に包囲されても狼狽えている様子は見られなかった。
大きく深呼吸をし、頭を冷静に働かせようとしているようだ。
ミカエラは神経を研ぎ澄ませ、そして一気に動き出した。
「
ミカエラは、神聖教流の火炎魔法を茂みに放ち、オークたちの目をそらした。
その隙に、すぐ近くのオークを倒し、包囲を突破しようとした。
「なっ!?」
しかし、どこからか矢が飛んできてミカエラの右腿を貫いた。
ミカエラはそのまま前のめりに転び、オークたちは好色によだれを垂らしながらミカエラに迫った。
「クッ!」
ミカエラは体勢を立て直そうとしたが、オークたちに取り押さえられた。
他のオークより大柄なハイオークが、体の一部をいきり立たせ、ミカエラの目の前に立った。
ミカエラは足掻いて暴れたが、多数に無勢で身動きは出来ない。
ミカエラは、オークたちに完全に取り押さえられていた。
そして、着ていた服を破られ、よだれを垂らしながら好色な笑みを浮かべる大柄なハイオークの大きなモノがあらわになった。
ミカエラは、悔しさと嫌悪感によって、歯を食いしばり、口の中から血が流れた。
「クッ、殺せ!」
ミカエラは絶望的な状況でも気高さだけは保とうというのか、気丈にも叫んだ。
しかし、オークたちには言葉が通じず、ハイオークがミカエラに乗りかかろうとした。
その時だった。
ハイオークは、突然細切れになり崩れ落ちた。
「……え? な、何が?」
最悪を覚悟したミカエラだったが、その相手が突然細切れになったことに頭が混乱した。
「ミカエラさん、大丈夫!?」
細切れになったハイオークの後ろから、声をかけられて、ミカエラはさらに混乱した。
そこには、士官学園の劣等生でいじめられっ子が、日に照らされて輝いているように立っていた。
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