第35話 異世界の悪魔

 俺はタツマ達から話を聞いて軍の駐屯地にやって来た。

 話を聞いた北方防衛の責任者オサフネは、難しい顔をしている。


「……異世界の悪魔が。それは確かなのですか?」

「ああ、そいつは間違いねえ。ミカがそう言えば確実だ。俺達奈落の守り人の白金の瞳は異世界の悪魔を見分けることが出来るからな」

「そうですか。ですが、防衛線を突破されたという報告はありませんよ?」

「悪魔どもに、そういう常識は通用しねえよ。奴らは特殊なスキルを持ってやがるからな。たとえ、転移魔法陣を設置していなくても、こっそり侵入できる奴がいてもおかしくはねえ」

「ええ、奴らは何の前触れもなく現れたんです。でも、襲ってきたのは二人だけでしたから、侵入してきたのは少数のはずです」


 タツマも俺達と一緒に軍議に参加させている。

 こいつはまだ学生のガキだが、度胸もあるし、頭の回転も悪くはない。

 使えると思って連れてきた。


 旅団幹部の他にも、クロとムラマサも一緒だ。

 アガサとサヨは、倒れたディアナの面倒を見させるために置いてきた。


 まず無いとは思うが、万が一悪魔どもがディアナを追ってきても、アガサがいれば安心だ。

 それに、『世界最恐のババア』の姪孫に何かあったら、どんな目に遭わされるかわかったもんじゃねえしな。


「わかりました。ならば街には戒厳令を出します。手の空いている者には捜索に出させるようにしましょう」

「ああ、頼んだぜ。俺達はすぐにでもミカ達の捜索に出る。装備を貸してくれ」

「ええ、好きなものを持っていってください。ムラマサはオレと司令室だ。旅団長の本当の仕事をみせてやるよ」

「はい、兄上!」


 俺達は駐屯旅団の倉庫に向かった。

 そこで、捜索に必要な装備を整えた。


「異世界の悪魔は何をしに来たのだろうか?」

「ふん! 雪まつりを見に来たってことはねえだろうぜ、クロ公。奴らはただのクソ野郎共だからな。ろくな事考えてねえよ」

「そうでしょうね。あいつら、ミカちゃんを見た瞬間に襲ってきましたからね」

「そうだな。何しに来たかは知らねえが、ミカに手を出した時点で、死刑確定だ!」

「ひぃ! カイン隊長、闘気を抑えてください!」


 タツマがガクブルと震えている。

 おっと。

 どうやら闘気が漏れちまったな。


「焦るでないぞ、カイン。吾輩達はマンジとミカエラの捜索が優先なのだぞ」

「ふん! そんぐれえわかってんよ! さっさと行くぞ!」

「偉そうにしおって。……む? こ、これは、マンジからの召喚だ! よし! マンジは無事なようだ! 吾輩は先に行くぞ!」


 クロは嬉しそうに消えていった。


 マンジ、あのガキは無事か。

 だが、まだミカエラはわからねえ。

 今はクロが戻ってくるのを待つしかねえな。


☆☆☆


 ディアナたちに逃げられた異世界の悪魔達は、小高い丘の上に残っていた。


「くっそ! 逃げられちまった! 帝国にいなかったエルフをやっと見つけたのに!」

「おい、リュウ! お前、何勝手なことしてるんだよ!」


 仮面をかぶった悪魔は憤慨して、痩せぎすの悪魔リュウを怒鳴った。

 リュウは、不細工に顔を歪めて仮面の悪魔に詰め寄った。


「ああ!? お前に指図される筋合いはねえ! つうか、何だよ、その仮面は? 厨二病かよ?」

「この仮面は好きでつけてるんじゃない。僕は特別な転生者だ。素性がバレたらいけないんだよ」

「ああ、そうかよ! だから、いきなり独断で攻撃したんかよ? ボンボンだもんな?」

「黙れ! 僕がこの世界の『勇者』だ!」

「図星突かれて逆ギレしてんじゃねえよ! オレだってステータスカンストしてんだ! PKすんぞ!」


 二人の悪魔たちは、低レベルな言い合いをして互いの転生特典の能力をぶつけ合おうとした。

 そこに、何もない空間からドアが現れた。


「どうかなさったのですか、勇者様?」


 ドアから赤い髪をした化粧の濃い女が現れ、二人は目をそらして能力を消した。

 女はスリットの入った露出の激しいチャイナドレスを着て、悪魔たちは目のやり場に困ったようだ。


「な、何でも無いよ。リーナさん。リュウが僕に逆らうから、ちょっと」

「お、オレは別に……」


 リーナは口ごもる二人を見て、クスクスと妖艶に笑った。


「リュウ様、今のあなた様は勇者様のパーティーにいるのです。宰相様の作戦通りにお願いいたします。勇者様も油断なさらないように。ここは敵の本拠地『修羅の国』なのですよ?」

「うん、わかってる。僕が必ず『魔王』を倒してみせる」

「ふふふ。その意気です。この世界の平和は、勇者様にかかっていますからね」


 リーナがドアへと戻ると、入れ替わりに二人の男が現れた。

 一人は、白髪の老人だが、筋肉が隆々とした巨大な矛を持った大男。

 もうひとりは、小柄のカンフー服の男で、所作に無駄がない。

 どちらも強者と言ってもいいほどの覇気がある。


「……モウゴウとオウコツか。父さんも心配性だな、この二人をよこすとは。でも、これで奇襲はかけれる。……よし、行くぞ!」


 『勇者』と呼ばれた仮面の悪魔を先頭に、街へと向かった。


☆☆☆


 クロは召喚され、一瞬にしてマンジの持つ幻獣の書の魔法陣から光とともに飛び出した。


「マンジ、無事か!? ……っ!? ぬ、ぬわあぁぁぁ!?」


 クロが飛び出した先には、巨大な怪物がいた。

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