第34話 目覚め
エステを終えて、スッキリした気分のアガサ・ミサはホテルのロビーでくつろいでいた。
しかし、穏やかな時間はすぐに消え去った。
「あ、アガサ先生!」
タツマとサヨが大急ぎで駆け込んできた。
タツマの背中には、アガサの魔法の師匠の
これは明らかにただ事ではないことが起こったと、アガサは理解した。
「ディー!? キミ達、一体何があったの!?」
アガサはディアナに駆け寄り、一目で魔力切れを起こしているだけだと気づいて、ホッとした。
この少女は、感情が高ぶると魔力が暴走してしまうクセがあることを知っていたからだ。
「む? 騒がしいな? 何事だ?」
騒ぎを聞いてクロもやってきた。
そして、タツマは異世界の悪魔が現れ、マンジとミカエラが崖から落とされたことを説明した。
「ぐぬぅ、マンジとミカエラが! な、何ということだ! 異世界の悪魔とは、わ、吾輩が付いておれば!」
クロは地団駄を踏んだ。
「うっうっ。ご、ごめんなさい。私達は少し離れてて、気づいたときにはもう遅くて……」
「泣くなよ、サヨ! オレだって、何も出来なかった。一番の親友が目の前でやられたっていうのに、何のために今まで鍛えてきたんだよ!」
泣きじゃくるサヨを抱きしめ、タツマも悔しそうに床を殴った。
「キミ達に責任はないわ! でも、異世界の悪魔を相手にして、よくここまで戻ってこれたわね?」
「は、はい。実はマンジたちをやられて、ディアナちゃんがキレたんです。その魔法の威力に敵が戸惑っているうちに逃げてきました。でも、ディアナちゃんも力尽きちゃって……」
「そう。さすがは『伝説の大魔女』の血を引いているわね。……後は任せて。キミ達は休みなさい」
「待ってください! オレはまだ出来ます!」
「……ふふ。キミは将来いい男になるわね。でも、焦ってはダメよ。相手は危険すぎる。少し待ちなさい」
アガサは責任感に溢れるタツマの熱い目を見て、ニコリとした。
そして、この地に来て一番の真剣な表情になった。
アガサは地下のバーへ降りていくと、すぐにカインを見つけた。
カインは酔いつぶれて、バーカウンターに突っ伏していた。
アガサはカインを起こすためにつかつかと近寄った。
「バカイン! 何やってるの! 早く起きなさい!」
アガサはカインの体を揺さぶったが、ブツブツと呻くだけだ。
「……うるせえ。俺はお前のせいでもう生きる気力がねえ……」
『ブチッッ!』
アガサの中で何かがキレる音がした。
アガサはバーカウンターの中身の入ったウイスキーボトルを手に取ると、カインの頭に思いっきり振り下ろした。
ビンは粉々に砕け、カインはウイスキーまみれの頭を押さえながら飛び起きた。
「ぐおおおお!? て、てめえ、そ、そんなに俺を殺してえのか!?」
「何を寝ぼけたことを言ってるの! あんたがどうしようもないダメオヤジだからでしょうが! いつまでスネてるの! 本当に役立たずのクズになりたいの!」
「あ、ああん? どういうこった?」
「異世界の悪魔がいきなり現れたのよ! あんたの姪っ子のミカエラちゃんとマンジくんが襲われて行方不明……」
「何だと!?」
カインはアガサの話を聞き終わる前に立ち上がろうとした。
しかし、足元がおぼつかなく、隣の席に突っ込んでいった。
「まったくもう! 何やって……え?」
「……まだ、目が覚めねえ。刺激が足りねえ」
「……わかった。十二神将・白虎!」
アガサが四神・白虎を呼び出した。
呼び出された猛虎はカインの頭に噛みつき電流を流した。
「ぐわあああ!? ……と、とんでもねえ奴出しやがって。こ、殺す気、かよ?」
「何言ってるの。これぐらいであんたが死んだら、世の中の女は苦労しないわよ」
「ぐ、う。……だが、これで目は覚めた。ありがとよ、ミサ」
カインが再び立ち上がった時、『剣神』の二つ名にふさわしい男の顔つきになった。
アガサはかつてのように心が揺らめいたが、表には出さなかった。
俺はかつて最愛の妹を一生守ると誓った。
だが、守れなかった。
その妹の忘れ形見を今度こそ守ってみせると誓った。
また守れなかったら、俺はただのクズに成り下がる。
何のために、血の小便を出し尽くした?
何のために、数え切れねえほどの死線をくぐり抜けてきた?
何のために、世界最強を目指した?
俺はまた同じ過ちを繰り返すのか?
いや、まだだ。
まだ手遅れと決まったわけじゃねえ。
諦めるわけにはいかねえ。
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