第33話 小高い丘の上で

「あれ? ミカちゃん、カイン隊長はどうしたの?」


 僕たちはみんなでホテルの夕食を食べていた。

 その中にカインがいないので不思議に思った。


「ああ、伯父さんなら一人で飲んだくれているわよ」

「の、飲んだくれてって。そ、そんなにショックだったのかな? 昔話を暴露されて」

「ええ、そうみたい。私に軽蔑されたと思って落ち込んでるわ。それぐらい気にしてないのに。私の前でいつも格好つけてるけど、伯父さんがだらしない人だって昔からバレバレなのにね」


 ミカエラは困ったようにため息をついた。

 等身大の『剣神』は大きい子供みたいだ。

 僕には苦笑いしか出来ない。


「確かにそういう人な感じはしてるよね。前に会った時も酔っ払って騒いでたし。噂に聞いていた人とは全然違ったよね」

「そうだな、サヨ。俺ももっと近寄りがたい人だと思ってたぜ。でも、俺が憧れているのはカイン隊長の最強伝説だ。どんな人だろうと剣の腕には変わりねえ。それに、英雄色を好むだぜ!」

「……タツマ、そこは見習わないでよ?」


 サヨがタツマに注意したことで、僕とクロはニヤリと笑った。

 それを見てサヨは少し顔を赤くした。


「な、何よ! ……あ、そう言えばディアナちゃん、アガサ先生は?」

「は、はひ! ミサ先生は言いたいことを言ってスッキリしたみたいで、エステに行きました」


 黙々と食べていたディアナは、急に話しかけられて少しびっくりしたようだ。

 あの憧れだったアガサ・ミサも変わった人のようだ。


 カインに対しては背筋が凍るような感じだったが、僕たちに対しては感じが良かった。

 多分、感情の赴くままに生きているみたいな自由人だな。


「でも、あれはただの痴話喧嘩だったよね?」

「ああ、俺もそんなように感じたぜ」

「本当に。私もそう思っただけなのに。嫌われたと勝手に思い込んじゃって」

「やれやれ、情けない男だ」


 ミカエラとクロは呆れてため息をついた。

 まるでミカエラの方が保護者みたいだ。

 でも、ミカエラが大人びているのもこれで納得だな。

 

 食事の後、僕たちは五人だけで外へ出かけた。

 小高い丘の上に行き、夜景を眺めた。


「うわぁ、キレイ!」

「ああ、そうだな!」


 タツマとサヨは二人並んで夜景を眺めている。

 本当にお似合いで僕たちは少し離れた。


「あの二人、本当にお似合いです。う、羨ましいです」

「うん、そうだね、ディアナちゃん。僕は子供の頃から一緒だったけど、二人には幸せになってほしいんだ」

「そっか。私にはそういう友達がいなかったから、よくわからないわ」

「そうなんだ。ミカちゃんの子供の頃ってどうだったの?」

「……私は、帝国に追われてずっと転々としてたから」

「あ! ごめん! そっか、『奈落の守り人』の血筋だから。その……」


 僕は、ミカエラに失礼なことを聞いてしまったと思って口ごもった。

 ミカエラはそんな僕を見て小さく首を振った。


「ううん、いいのよ、それぐらい。気にしないで。今はカイン伯父さんに引き取られてよかったと思ってるから」

「あの、ミカちゃん、その……」

「ようよう、お嬢ちゃん一人だけあぶれて寂しいねえ? オレが相手しようか? おお! その耳、エルフじゃねえか! 初めて本物に会ったぜ!」

「ひぃ、きゃー!?」


 僕はミカエラに近づこうとした時、気味の悪い声が聞こえた。

 ディアナの背後から肩に手を置き、びっくりしたディアナは雪の上に倒れた。


「何だよ、そんなにビビんなよ、ショックでけえぜ?」

「な、何者だ!?」


 僕たちは急に現れた男に身構えた。


 どこにでもいそうな、いや不健康に痩せた体格の男だ。

 でも、不気味な恐怖を感じる。

 何者だ?


「何者って言われてもなぁ……」

「貴様、その汚らわしい口を開くな! 『異世界の悪魔』!」

「え!? 異世界の悪魔って、まさか帝国軍!? ど、どうしてここに?」


 ミカエラは、殺意のこもった目で目の前の男の正体を断言した。

 でも、僕には不気味な気配は感じるけど、見た目は普通の人間にしか見えない。


「悪魔だぁ? その呼び方気に食わねえんだよ! ……ん? ギャッハッハ! よく見りゃあ、その白金の目『邪神の使徒』かよ! いきなり引き当てるたぁ、運がいいぜ!」

「え? じゃ、邪神? 何を……あ! ミカちゃん、危ない!」


 何かがミカエラに襲いかかってきたので、僕は飛び出してかばった。


 何とか、ギリギリでかわすことが出来た。

 僕もミカエラも怪我はない。


 どうやら奇襲してきたのは、剣を持った人間、いやこいつも異世界の悪魔か?

 仮面をしていて顔がよくわからない。


「ありがとう、マンジく……え!? きゃあぁぁ!?」

「え!? う、ウソだろぉぉぉ!?」


 僕とミカエラのいた地面が崩れ、僕たちは真っ逆さまに崖から落ちていった。

 そして、目の前が真っ暗になった。

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