第36話 心の傷
―話は少し遡る―
「……う、ん……あれ? ここは……?」
「良かった! やっと、気が付いたね」
「え、み、ミカちゃん?」
僕が目覚めた時、ミカエラが大粒の涙を流していた。
あのミカエラが泣くなんて、よっぽど心配をかけてしまったみたいだ。
「ごめんね、ミカちゃん。何か心配かけちゃったみた……ふぇっ!?」
「こんな無茶なことしないで!」
僕は笑いかけようとしたら、ミカエラに平手打ちをされた。
ミカエラは涙をにじませ、僕をきつく睨む。
僕は間抜け顔で固まることしかできなかった。
「……私より弱いくせに! どうしてそんな君が私を守ろうとするの! 死んじゃったら、どうするのよ!」
「え、だ、だって、その……」
ミカエラは声を荒げ、膝に顔を伏せた。
僕は何て答えればいいのか、口ごもりうなだれてしまった。
ミカエラが熾してくれた焚き火から乾いた木々の爆ぜる音が聞こえるだけだった。
☆☆☆
どれだけ時が過ぎたのか分からない。
僕は沈黙に耐えきれずに顔を上げた。
「あの、ミカちゃん! 僕……」
「……マンジくん、私……」
ミカエラも同じ気持ちだったのだろうか、僕たちは同時に顔を上げて見つめ合うことになった。
「……ぷ! あはは!」
僕は思わず声を上げて笑ってしまった。
でも、ミカエラはぎこちなく顔を歪めるだけだ。
「あ、ごめん」
「ううん、違うの。悪いのは私、助けてもらったのに……私ね、笑えないの」
ミカエラは、ぽつりぽつりと過去を語ってくれた。
帝国に追われて各地を転々としていた幼少期、泣き虫な子供だったけど両親からは愛されていたこと、そして、両親が目の前で帝国軍に殺害されたこと。
帝国に復讐するために誰よりも強くなりたいこと、異世界の悪魔を一掃するために奈落の守り人になりたいこと。
特に、父親が自分をかばって目の前で命を散らしたことが最も大きな心の傷になり、笑顔を失ったこと。
「私をかばって誰かが死んじゃうなんて、もう見たくないの」
「だ、大丈夫だよ! 僕はちゃんと生きてるし!」
「そ、そうね。……ごめんね。私は強くなるって決めたのに、こんな……」
「ううん。……あ、そうだ! もしかして、ミカちゃんがここまで運んでくれたの?」
ミカエラがまだ落ち込んでしまっているので、僕は話題を変えた。
僕たちが今いるのは狭い竪穴の中みたいだ。
火も焚いていてくれているので暖かい。
「え、ええ。木と雪がクッションになってくれて、奇跡的に助かったみたい。怪我もしてたけど、私の回復魔法でも治せる程度で良かったわ」
「そうなんだ。ありがとう。でも、こんなにいい場所よく見つけれたね?」
「あ、それはこの子達に助けられたの」
と、言われてミカエラは竪穴の奥を向いた。
そこには小人のような人達がいた。
岩陰で僕達を見ていたが、恥ずかしそうに隠れてしまった。
「ありがとう! ここって君たちのお家なの?」
僕が声をかけると、小人の一人がひょっこり顔を出してコクコクと頷いた。
何だか可愛らしくて笑ってしまった。
「そうみたい。私が森の中をさまよってたら、ここに案内してくれたの」
「そうなんだね。でも、みんなが心配してるからすぐに行かないとね」
「ええ。私達がいたら迷惑がかかるし」
「そっか! 異世界の悪魔達が!」
「そうよ。あの悪魔たちが追ってくるわ」
ミカエラは異世界の悪魔と聞いて、ゾッとするほど憎悪のこもった目になった。
小人たちも怖くなって隠れてしまった。
『グゥオォーーー!』
突然、獣のような恐ろしい唸り声が聞こえてきた。
竪穴の入り口から岩を削るような音が聞こえてくる。
壊して中に入ってくるつもりか?
「な、何が!?」
「この声はクマ? 普通は冬眠中のはず」
ミカエラも気を取り直して、緊張した面持ちで立ち上がった。
でも、丸腰だからまともには戦えないはずだ。
小人達は慌てふためいて、パニック状態だ。
「ねえ、ミカちゃん。まだ魔法は使える?」
「ええ。消費はしているけど、まだ使えるわ」
「そっか。だったら……壊して入ってくる前に追い払う!」
僕はミカエラに策を話した。
「……わかったわ! その作戦に従う」
ミカエラも同意してくれて、僕たちは戦闘態勢に入った。
襲ってきたのはどうやらクマみたいなモンスターだ。
黒茶色の巨大な手が見え、赤毛のトサカが冠のような顔を覗かせてきた。
まるで、気が狂っているみたいに暴れている。
「今だ、ミカちゃん!」
「はああ!
『グギャーー!?』
クマ?が顔を覗かせた瞬間、タイミングを見計らって、ミカエラがオークの集団を焼き払った火炎魔法を放った。
これで倒すことができればいいけど、明らかに普通のクマとは何かが違うから確実ではない。
僕たちはクマ?が入り口から離れた隙に外へ出た。
顔の周りの毛が焼け焦げているが、全く効いている気配がない。
やはり、普通のクマではない。
「
僕は『幻獣の書』を出し、魔力を込めた。
そして
「高貴なるケモノよ、我が呼びかけに応じよ。出でよ、幻獣『ケット・シー』!」
召喚の詠唱をし、僕が最も頼りにするクロを呼び出した。
よし!
これで策が決まった。
クロが魔法陣から出てきて、ホッと一安心だ。
「マンジ、無事か!? ……ぬ、ぬわあぁぁぁ!?」
え?
あれ?
もしかして、クロでもやばい?
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