第28話 パーティーに行く

 僕はミカエラの家の前にやってきた。


 今までの人生で一番のオシャレをしている。

 心臓の音が激しく太鼓を打ち、膝が小刻みに震えて足が地についていないような気がする。

 ミカエラに誘われてやって来たのだが、緊張してどうすればいいのかわからない。


 話は昨日のことだ。

 昼休みに食堂でタツマとサヨ、ディアナといつものメンバーで昼食を食べている時だった。

 今学期の試験も終わり、僕たちは冬休みに入る直前で緊張感から解き放たれていて和やかに話をしていたらミカエラから話しかけられた。


 ミカエラの自宅で従姉妹のカーリーの誕生日パーティーをするから、僕たちみんなに来てほしいということだった。

 僕のことを友達だと思ってくれていたので嬉しくなる。

 カーリーは賑やかなのが好きらしいので、他のみんなも招待された。


「何をしとるか、マンジ。早くせんか」

「ちょ、ちょっと待ってよ、クロ」


 緊張している僕を置いて、クロはさっさと家の中に入ろうとしている。

 クロも一緒に連れてきてほしいということだったので一緒に来ていた。


「もう、マンジ。堂々としなさいよ。ディアナちゃんが発電しちゃうでしょ」

「さ、サヨさん? わ、私はそんな事しません」


 サヨとディアナは、バッチリとオシャレをしている。

 二人共神聖教共同体の貴族風のドレス、サヨは明るいオレンジ色、ディアナは爽やかな水色を基調にしている。

 二人共、元々の素材がいいのでよく似合っている。


「ま、待ってくれよ、みんな!」


 タツマもオシャレな紺色のジャケットを羽織り、いつものイケメンを栄えさせている。

 でも、子供の頃からの憧れのカイン隊長に会えるので、緊張しすぎていつもの堂々とした男らしさが全く無い。


「まったくもう! タツマもマンジもシャンとしなさい!」


 サヨに怒られて、男組は形無しだ。


「……やれやれ、いつまで経っても子供だな」


 クロは僕たちのやり取りを見ていて、ため息をついた。

 ネコであるクロは身軽に飛び上がって、玄関のドアノッカーを器用に叩いた。

 すぐに返事があって、玄関ドアが開いた。


「あら、いらっしゃい。クロさんも来てくれてありがとう」

「うむ。招待してくれて礼を言うぞ」


 出迎えてくれたのはミカエラで、クロはふてぶてしく挨拶をした。

 僕は初めて見るミカエラのドレス姿に、顔がニヤけてとろけそうだ。


「いて!?」

「こら、マンジ! そんなスケベ顔したら、またディアナちゃんが発電するでしょ!」

「……だから、私はしませんよ?」


 と言いながらも、ディアナの周囲に電流がほとばしり始めた。


 や、やばい!

 こんなところで暴走しちゃダメ……


「おーい、ミカ! 誰が来たんだ?」

「カイン伯父さん! マンジくん達が来たわよ!」


 家の奥からカインの大声が聞こえてきた。

 いいタイミングで声をかけてくれたおかげで、ディアナははっとして落ち着いたようだ。

 僕たちもホッと一安心だ。


「みんな来てくれてありがとう。それじゃあ、上がってちょうだい」


 ミカエラに案内されて中に入っていった。

 かなり賑やかで、すでに盛り上がっていた。


 前にも一度来たことがあるけど、あの時は全く余裕がなかったのでよくわからなかった。

 豪邸というほど広くはないが、ホームパーティーをするには十分な広さだ。

 リビングには二十人ほどすでに集まっている。


「おお! マンジ少年、キミが来てくれてボクは嬉しいぞ!」


 僕たちが中にはいると、主役であるミカエラの従姉妹カーリーは満面の笑顔でやって来た。

 どこのお姫様なのかというぐらい豪華なドレス姿だ。


「あ! カーリーさん、この度はお誕生日おめ……で!?」


 カーリーは僕が挨拶を言う前に抱きついてきた。

 弾力のあるメロンに顔を挟まれて、目が回りそうだ。


「ニャハハ! ありがとう! ……ん? キミ達は?」

「あ、私達はマンジの幼馴染で、ミカエラさんに一緒に招待されて……えぇ!?」

「ニャーッハッハ! マンジ少年の友達なら、ミカの友達だな! 歓迎するぞ!」


 カーリーはみんなに抱きついて回った。

 相変わらず、大胆で陽気な人だ。

 というより、酔っ払ってる?


「おう、小僧! よくも俺の家の敷居をまたげたもんだな?」

「はう!? か、カイン隊長!?」


 や、やばい!

 カインが不機嫌そうに顔をしかめて僕の前にやってきた。

 前回逃げ出したことを、根に持ってる?


「なんてな! 冗談だ! ギャハハハ! ……ミカを助けてくれたんだってな? 礼を言うぜ!」

「おい、オヤジ! ミカを助けてくれたんだぞ! ちゃんとDOGEZAをしてお礼を言えよ!」

「へへへ、カーリー、土下座は謝る時に使うんだぞ? 間違えちゃって可愛いなぁ?」

「う、うるさい! 寄るな、触るな、気持ち悪い!」


 カインも、かなり酔っ払っていて人格がその辺の酔っ払いのオッサンだ。

 僕たちは伝説の英雄であるはずの『剣神』カイン・ノドの素の姿に唖然としている。


「やれやれ、うぬはいくつになっても悪タレだな?」

「お? クロ公じゃねえか! 久しぶりだな? ジョーンズのオッサンの葬式以来か?」

「……そうだな。ちなみに、このマンジはジョーンズ様の孫だ」

「ほう? このガキがあの食えねえオッサンの孫だったとは」


 カインはジロジロと僕を見て、うんうんと頷きクロと話をしている。


「あ、あの! お、俺、いや、僕は、カイン隊長に憧れていまして!」


 ずっと黙ったままだったタツマが突然カインに話しかけた。

 目をキラキラと輝かせて、カインの醜態が目に入っていないようだ。


「ほほう、俺のファンか! ……よし、気に入った! こっちに来て一緒に飲むぞ!」

「はい!」

「だ、ダメだよ、タツマ! 私達はまだ学生……」

「お? お嬢ちゃんはこいつの彼女か?」

「え、えと、わ、私達はただの幼馴染でして……」


 サヨはカインにタツマの恋人だと思われて、赤くなってもじもじしている。

 そのサヨを見て、カインはニヤリと笑った。


「ククク、可愛いじゃねえか! 青春してんな!」

「きゃあ!? ちょ、ちょっと……」


 サヨもタツマと一緒に、カインに部屋の奥へ連れて行かれた。

 そこは他の特殊部隊の隊員たちが豪快に飲んでいる席だ。

 ご、ご愁傷さま……


「まったく、本当にダメおやじだな」

「あ、あの、カーリーさん。僕たちはみんなでお誕生日プレゼントを持ってきまして……」


 僕がプレゼントの包みを出そうとしたら、カーリーは満面の笑みになった。


「うふふん、ありがとう! しゃべるネコなんて珍しいなぁ!」

「え!? ち、ちが……」

「ば、バカモノ! わ、吾輩は……!?」


 カーリーがクロを抱きしめようとしたら、クロは距離を取った。

 クロは警戒して四足で身構え、毛が逆立っている。


「つ、捕まるか!」

「甘いよ!」


 逃げ出そうとしたクロをカーリーは簡単に捕まえた。


「ば、バカな!? ほ、本気の我輩を!?」

「知らなかったかい? ボクからは逃げられないよ!」


 な、何て身体能力だ!?

 最強の父娘、性格どころか能力までもそっくりだ。


「……はぁ。おねえちゃんには困ったものだわ」


 僕の隣でミカエラが呆れてため息をついた。

 その時に呼び鈴がなったので、ミカエラはまた玄関へと出迎えに行った。

 一人残された僕は、気の毒なクロを見て苦笑いをしていた。


「よーしよしよしよし!」

「や、やめろニャ、ニャー! ……フニャーン、ゴロゴロゴロ」


 カーリーにわしわしと撫でられて、クロはただのネコになってしまったようだ。

 いつの間にか、ディアナも一緒になってクロを撫でている。


「やれやれ、カーリーのやつはいつまで経っても子供だな?」


 ミカエラに案内されて入ってきた男を見て、僕は驚きのあまり目が飛び出そうになった。

 この特徴的な左目の眼帯。

 ま、まさか、こ、この御方は!?


 このヤマト王国国家元首『英雄王』トクダ・クニツナその人だった。

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