第29話 英雄王
ウソーん!?
国家元首『英雄王』が普通に遊びに来るなんて!
どうなってんの、この家!?
当然ながら、その息子で僕たちの同期生トクダ・ムラマサも一緒だ。
後ろには、超がつく和風美人とちょこんとした小さい女の子を連れている。
あの名門トクダ一族がやって来た。
「お、クニツナさん、来てくれてありがとう! ……その子ってもしかして……」
「うむ。私の孫娘ミツヨである。……ほれ、隠れてないで自分で挨拶せい」
「……かーりーおねえしゃま。おたんじょーび、おめれとーごじゃいましゅ」
「くぅー、キャワイイなぁ! ありがとー、ミツ! 大きくなったね!」
と言って、カーリーは舌っ足らずに挨拶をした少女ミツを抱きしめた。
ミツも褒められて嬉しそうにはにかんでいる。
「どうだ、カーリー? 私の孫娘は可愛いであろう、ん?」
「ニャハハ! クニツナさんもミツが生まれてから丸くなったね! 孫バカじいちゃんじゃないか!」
ええ!?
カーリーは気軽に話しているが、とんでもない御方なんですけど!
こうして周囲を眺めてみると、他にもヤマト王国の外務大臣、同盟国テンジクの外交官、特殊部隊以外にも大物がたくさん来ている。
カーリーって、何者?
「そうであろう! 子供はいいものだぞ? ……ふ、カーリー。お前もそろそろいい歳になったのであろう? 自分の子供も欲しくなったのではないか? 私のもうひとりの息子と正式に婚約を……おい、待たぬか!」
「やだよーだ! ボクはまだみんなと遊びたいんだよー!」
カーリーはクニツナからさっさと逃げてしまった。
ええ!?
じ、自由すぎるだろ。
英雄王に対して、ぶ、無礼なんじゃ……
「……やれやれ、この親にしてこの子ありか」
クニツナが楽しそうにはしゃいでいるカーリーを見て、困ったように笑っている。
「あんだよ、クニツナ? あいつがワガママなのは俺のせいじゃねえぞ?」
「クックック、そなたも相変わらずの悪童であるな、カイン? 若い頃と変わらずに英雄王となった私と対等でいられるのはそなただけだ」
いつの間にかやって来たカインは、無礼にもクニツナの肩を軽く拳で触れた。
クニツナもまた、嬉しそうに困り顔で笑った。
後でミカエラに聞いた話だが、クニツナとカインは修行時代の若い頃から対等の親友同士らしい。
それぞれ談笑していた大物たちは、クニツナがやって来たことに気づき、カインを押しのけて次々と挨拶をしにきた。
「ごほん!」
僕とミカエラがクニツナの様子を見ていると、後ろからわざとらしい咳払いが聞こえた。
振り返れば奴が……ムラマサがいた。
「あら、ムラマサくん。来てくれて嬉しいわ」
「う、む、わ、私は、べ、別に……」
「学校でも話をしてくれないから、来てくれないかと思ってたけど……あら? また誰か来たみたいね。じゃあ、楽しんでいってね」
ミカエラは忙しそうにパタパタとまた出迎えに行った。
ああ、ミカちゃん。
あれだけ可愛くて、強くて、努力家で、働き者、完璧すぎるよ。
「おい、サル! 何を下心丸出しでミカエラを見ておるか!」
「ぐぇ!? く、苦しい、よ」
僕はムラマサに胸ぐらを掴まれてしまった。
まさに鬼の形相だ。
「若、手を離しなさい」
「そうですよ。ミカエラさんと話が出来ないのは若のせいでしょ?」
「ぐぬぬぬ!」
ムラマサは従者のシズとチズに怒られて手を離してくれた。
シャイなのは分かるけど、僕に当たらないでよ。
「ギャッハッハ! そんなんじゃ、いつまでも童貞のままだぞ、ムラマサ?」
「ぐ! や、やめてください、カイン殿!」
「ははうえー、どーてーってなんれしゅか?」
「ええっと、それはね……」
「あ、姉上も子供にそんなこと教えないでください!」
ムラマサは見かけによらずいじられキャラのようだ。
カインは豪快に笑いながら特殊部隊の人たちが飲んでいる席に戻っていった。
タツマは楽しそうに笑い、サヨはふわふわとしている。
「ふぃ、や、やっと、解放されたぞ……」
解放されたクロがぐったりと僕のところに歩いてきた。
「あ、クロ。お疲れ様」
カーリーとディアナはいつの間にか二人だけで話をしているようだ。
「「あ、カーリーお姉様! ミカエラさんも一緒にガールズトークしますよ!」」
「んだぁ! みかえらもけらっしゃい!」
「え! ちょ、ちょっと私は……」
「ニャッハッハ! この子飲ませたら面白いなぁ!」
シズとチズは、二人と合流しようと元気に歩いていった。
そして、戻ってきたミカエラもなぜか酔っ払っているディアナに無理やり連れて行かれた。
「おお、クロ! 久しぶりであるな」
僕が気の毒そうにミカエラを見ていると、クニツナがクロに気がついて話を切り上げてこちらにやって来た。
「む? おお、クニツナ殿か! 息災か?」
「ええ!? クロ、御屋形様とも知り合いなの!?」
クロにはいつも驚かさられっぱなしだ。
顔が広すぎるだろ!
「ということは、そなたがジョーンズ殿の孫であるか?」
「は、はい! あれ? どうして僕のことを?」
「ハハハ! ジョーンズ殿の身内であれば気にかけて当然である。かの偉大なる冒険者には新兵の頃の若造の時分に世話になったものだ。そなたの父も私の軍時代の部下であったしな」
クニツナは遠い目をしてその頃を懐かしんでいるようだ。
クロもうんうんと頷いて共感している。
「そ、そうだったのですか!? 全然知りませんでした」
僕が驚きの声を上げるとクニツナは嬉々として祖父との思い出話をしてくれた。
しかし、父のことに触れると声の調子を落とした。
「……そなたは、父親のことを知っておるか?」
「え? 父、ですか。はい、帝国との戦争で亡くなったということぐらいは」
「であるか。その時の戦いは帝国の大規模な侵攻によるものでな、ヤマト王国存亡の危機と言ってもいいほどであった。私も片目を失ったが辛うじて、撃退することは出来た。が、多くの命を失った。そなたの父は私の背を守り、その内の一人となった」
「え、ええ。それは有名な戦いでしたからね。当時の文献を読んで少しは知っています。ですが、父がそのような最期だったとは……」
「ふむ。そなたの父は祖国を救った名誉の戦死ということになっておる。私も救国の英雄に祭り上げられた。だが!」
と、クニツナは言葉を区切り、カッと力強く目を見開いた。
「私はその戦後に誓ったのだ。いつまでも同じことを繰り返す気はない、とな。今はまだ、子の世代には苦労をかけるであろう。だが、孫の世代が大人になる頃には新たな世界にするつもりだ。私が帝国との、異世界の悪魔との戦いを終わらせるぞ」
クニツナは、ムラマサの肩に手を置き、ミツの頭にもう片方の手を置いた。
ムラマサは父の思いを理解して勉学に励んでいるのだろう。
ミツはまだ理解できずにぽかんとした顔をしている。
でも、僕にもこの言葉がドンと響いた。
これが『英雄王』か。
穏やかだけど、内から漲る力は圧倒的だ。
「フハハハ! 期待しておるぞ、クニツナ殿! 吾輩もマンジを一人前の男にしてみせようぞ」
「ふ、そなたと再び会えて嬉しいぞ、クロよ。マンジよ、偉大なる男たちの孫であり息子として、励め!」
「は、はい! ありがとうございます、御屋形様!」
僕は英雄王に激励され、感動して頭を下げた。
その後は、僕もタツマたちと特殊部隊の人たちの席に座った。
憧れの男たちに囲まれ、夢を見ているような時間だった。
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