第26話 因縁の相手
「うん! 今日はー、これで終わりだねー」
「……あ、ありがとうございました」
僕は乱取りをトモエとやり、軽く遊ばれてしまった。
僕にも出来る基本技だけという制約だったが、全く相手にならなかった。
見かけは子供なのに、さすがは主将だ。
「ダハハ! オレでもトモエ姐さんには勝てねえんだからしゃーねーぜ!」
「う! そんなに笑わないでよ、マエダくん。僕だって少しは上達したんだからさ」
道場に倒れていた僕は、笑いながら差し出してきたマエダの手を取った。
彼は特等クラスだが、Cクラスの僕を見下すこともせず、仲良くなった。
柔術部に入部して、他のクラスや上級生にも知り合いが増えた。
全部で20人足らずの小さい部だけど、誰もが実力者だということが僕でも分かる。
それは、顧問のヤマウチのお眼鏡にかなわないと入部できないかららしい。
そんな中にどうして僕なんかがと思ってしまう。
クロとの修行の成果を認められたと思いたいけど、顧問のヤマウチはクラスの担任だし、運が良かっただけかも。
僕はいつも人との縁に恵まれるし、運がいいのは間違いない。
人からの親切は忘れちゃいけないし、人から受けた恩はちゃんと返さないとね。
その人に恩を返せればいいけど、もし出来なかったら他の人に返してあげればいいし。
子供の頃から祖母に教えられてきたが、祖父の故郷の考え方らしい。
帝国に滅ぼされてしまって今では無い国だけど、いつか平和な世界になったら行ってみたいな。
部活を始めてから、実技講習で急激に成績が上がりだした。
極端に体力が上がったわけでも、筋力が上がったわけでもない。
どうやら動きに無駄が少なくなっているようだ。
Cクラスの中で上に上がってきたことが明らかに分かる。
クロが僕を後押ししてくれたから良い結果になっていると思う。
クロは偉大な師匠だ。
新学期もあっという間に日が過ぎていった。
そして、今学期の試験になった。
最近は、考えることに体がついてくるようになったので、自分でも手応えを感じる。
今学期の試験最終日、各個戦闘の試験だった。
一対一の白兵戦が行われることになったが、対戦相手はあの因縁のタケチだった。
「何や、マンジが相手かいな? 楽勝やな」
タケチは余裕の表情でニヤついている。
相変わらず嫌味な男だ。
入学したばかりの頃、タケチにはひどい目に遭わされた。
友達面して騙して蹴落とし、それどころかただのストレス解消の道具として痛めつけられた。
いいようにやられて何も言えず、一人っきりで苦しめられた。
僕の気が弱いのもいけなかったけど、それでも人をいじめて良い訳がない。
でも、僕はクロに鍛えられ、友達も出来た。
立ち上がって、這い上がってきたんだ。
こんな奴に負けてたまるか!
「ちッ! 偉そうに睨みつけよって! 調子に乗るんやないで!」
タケチは手に持っていた木刀を放り投げた。
どうやら、僕と柔術でやり合う気だ。
「いいの? 君が得意なのは剣術だろ?」
「当たり前や! ワレ如き素手で十分や!」
タケチは僕を完全に侮っているようだ。
Cクラスで総合一位の誇りなのだろうか?
ちっぽけな誇りだ。
学年主席のミカエラは、補欠入学の学年最下位だった僕の作戦に誇りを捨てて従ってみせた。
本当に目指す先があるから、目先の見栄なんてどうでも良かったに違いない。
彼女の気高さの前に、こんな奴の意地なんて霞んで見える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます