第5話 叱責
起床のラッパの音が寮内に響き渡った。
「おい、さっさと起きろ! 起床時間だ!」
あの次の日、こんなに目覚めるのが嫌な朝は初めてだった。
でも、僕は上級生たちに追い立てられるように、怒鳴られながらキビキビと起きなければならなかった。
「お、おはようございます、マンジさん」
寮から教室へと向かう途中、ディアナと偶然会って僕に挨拶してきた。
僕も同じように挨拶を返した。
タツマとサヨも合流して、一緒に早足で校舎を目指した。
「ねえ、ねえ、みんなは昨日、何やったの? 医療科は、早く終わったから先に帰ったけど」
サヨはいつも通り明るく元気に話し始めた。
タツマもいつも通り自信に溢れて胸を張って歩いている。
「俺たちAクラスは意外と普通だったな。各教科担当の顔見せとこれから一年のカリキュラムの説明、その後は普通の授業だった」
「わ、私達もそんな感じでした」
人見知りの激しいこの魔法科の少女は、どうやら僕達に対して慣れてきたようだ。
自分から会話の輪に入ってきた。
「あれ? マンジが何か静かだね。どうしたの?」
「おお、そういえば、抜き打ちテストだったんだろ? どうだった?」
幼馴染の二人は、僕がずっと黙っていることを不思議そうに首を傾げて見ている。
僕は強がって笑ってごまかした。
「あ、ま、まあまあだったかな! アハハ!」
僕は気の許せる友人たちと別れ、地下の教室へと向かった。
地下への階段が、奈落の底が口を開けているような気がして、足がすくんでしまった。
しかし、勇気を振り絞って足を踏み出した。
僕が教室に入った時、タケチたちのグループは楽しそうに笑っていた顔を歪めた。
「何や? あれだけ無様な姿晒しときながら、よう来れたやんけ?」
「ぼ、僕は、その……」
「あ? 言いたいことあんならはっきり言わんかい」
タケチは僕が口ごもっていると恫喝するように睨んでいる。
だが、他の生徒たちには気が付かれないように声量は落としている。
僕は昨日徹底的にやられたせいで、勝手に足が震えてきた。
教室の引き戸の開く音がして、教室は一気に緊張感をもって静かになった。
Cクラスの担任ヤマウチが教室に入ってきて、僕は助けられたと思い、ホッとして席についた。
タケチも急に態度が良くなったように見せかけて静かに席についた。
ヤマウチは教室の壇上に立つと一同を静かに見渡した。
「おはよう、諸君。早速だが昨日の抜き打ちテストの結果で、言いたいことがある。貴様らは、本気で上に上がる気があるのか?」
いきなりの厳しい一言で、教室内はざわざわした。
ヤマウチが不愉快そうに眉間にシワを寄せると再びしんと静かになった。
「特に新入生たちがひどい。入学までの間に何をしてきた? 入学が決まっただけでエリート面か? 貴様らがCクラスにいるということは、その時点で他のクラスから出遅れているのだぞ。貴様ら自身がよく知っているはずだ。上に上がれなければどうなるのかをな」
ヤマウチが言葉を区切った時、僕を含めた新入生たちはうつむいていた。
入学時の説明会ではっきりと聞いていて、誰もがわかっている。
「Cクラスは二年生にはない。このクラスの上位10名はBクラスの下位10名と生き残りをかけて戦う。これは大げさではない。文字通りだ。入れ替え戦に挑めない10名は即留年! 残りの最下位10名は即退学だ!」
わかっていたはずの現実を突きつけられて、僕達新入生は顔が青ざめた。
このヤマト王国と同様の超競争社会のシステムと同じことだ。
ついていけない者は、即切り捨てられる。
その僕達を見て、タケチ達留年生たちはほくそ笑んでいるように見える。
が、ヤマウチの次の叱責で一変した。
「そして、留年生たちも同じだ。新入生たちに比べれば秀でているが、当然のことだ。一年余分に経験しているし、この学校のやり方も分かっているだろう。春休みの間にそれなりにやってきたこともわかった。だが、進級できなかった貴様らの悔しさは、その程度か? 伸び率はオレの予想の範囲内だ。その程度、やって当然のことだ。やって当然のことは、努力とは言わん! 本当にわかっているのか? この学校に二年連続の留年はない。本当に崖っぷちにいるのは、留年生の方だぞ!」
予想外に叱責され、隣の席のタケチは悔しそうに歯ぎしりをしている。
僕からしたらはるか上のレベルにいるタケチたちですら、この学校では物足りなかった。
この現実に、僕は打ちのめされるばかりだった。
この日の午後、僕たちCクラスは特等クラスの実技テストの見学をした。
ヤマウチ曰く
「自分たちの世代の頂点を見ておけ」
これが何を意図しているのか、僕には全く理解できなかった。
とても同い年とは思えないほどの圧倒的な実力差を見せつけられただけだ。
特等クラスの十人は誰もが超人的で、留年生たちですら相手にならないほどの成績だった。
その中でも、ミカエラは別格だった。
こんな相手に一目惚れしてしまった自分が、どこまで身の程知らずの間抜けなのかよくわかった。
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