第4話 洗礼を受ける

 これにはクラス中からざわめきが起こった。

 だが、明らかに動揺していない生徒たちがいる。

 多分、留年生で、この学園のやり方に慣れているのだろう。

 タケチも落ち着いていて、逆に嬉しそうにニヤついている。

 

 午前中は全ての時間を筆記試験に使った。

 内容は違うが、入試と同レベルの問題だ。

 僕は入学できたことに浮かれて、勉強し直さなかったので散々な結果だった。

 僕と同じように、意気消沈しているクラスメイトはみんな今年の新入生だろう。


 昼休みに食堂でタツマたちに話を聞いたが、Aクラスは通常の授業だったらしい。

 クラスによってやり方が違うようだ。


 午後からは実技のようで、僕たちの基礎体力を測定された。

 内容は入試のときと同じように行われた。

 もちろん、身体強化魔法や飛行魔法などは不可だ。


 握力……Cクラス平均21貫(約80kg)

     僕マンジ19貫(約71kg)

 半町走(50m走)……Cクラス平均5秒7

            僕マンジ6秒1

 垂直跳び……Cクラス平均3尺(91cm)

       僕マンジ2.7尺(81cm)


 その他にも多数測定は行われた。


 これはすぐに結果がわかるので、誰が出来て出来ないのか一目瞭然だった。

 タケチ達、留年生たちは飛び抜けていて、この学園で一年間鍛えられただけはあった。

 ちなみに、Cクラス平均がヤマト王国成人男性平均値とほぼ同じである。


 新入生でも身体能力が高ければ、得意分野では留年生たちに近い数字を出していた。

 でも、僕は特に優れているものがなく、明らかに下位にいることだけはわかった。


 って、やばいよ!

 僕ってこんなにレベルが低かったの!?


 元々補欠入学なのだから、実力では最下位に決まっている。

 わかっていたはずなのに、何の準備もしてこなかったのだ。

 認識が甘すぎた。


「おう、マンジ! えらいヘコんでんな?」


 トップクラスの実力を見せつけていたタケチは上機嫌に笑っている。

 僕は逆にぐったりとうなだれてしまった。


「う、うん。僕がダメすぎて、さ」

「何や、そんなことけ? ひゃはは、そないなもん、すぐに挽回できるで?」

「え!? どういうこと?」


 元気なく座り込んでいた僕は、勢いよく立ち上がった。

 タケチはニヤリとずる賢そうに笑った。


「まだ、対人戦闘が残っとるやんけ?」

「で、でも、僕は戦闘なんて苦手だよ」

「ひゃはは! 何や、対戦相手見とらんのか? ワイや、ワイ」


 タケチは自分を指差して、楽しそうに笑った。

 僕は、諦めてがっくりと項垂れた。

 やっぱり、ダメだ。


「そ、そんな。僕じゃタケチ君に勝ち目が無いよ」

「別に勝たんでもええんやで? ええ勝負したれば、ポイントも稼げるんや。ワイがええように見せたる!」

「そ、それってズルじゃ?」

「そんな事あらへんよ。ギリギリの時に仲ええ者同士が組んでポイントを稼ぐんや」

「そ、そうなの!? あ、ありがとう! お願いしてもいいかな?」

「ええでえ、ワイらはもうト・モ・ダ・チ、やろ?」


 僕は明るく笑うタケチの手を握り、感謝を示した。

 それから、順番が来るまでタケチと動きを合わせる練習をした。

 そして、僕たちの出番になった。


 担任のヤマウチとは別の教官が審判の位置について合図をした。

 ヤマウチは場外で生徒たちの査定をしているようだ。

 僕たちは木刀を構えて立ち会った。


「始めい!」


 タケチは打ち合わせ通り、僕でも反応できる速度で上段から振り下ろした。

 僕もまた、打ち合わせ通り、頭上に防御の構えをした。

 しかし、タケチの剣は突然軌道を変えて、僕の腹を横薙ぎにした。


「ゲエ!?」


 あまりの激痛で呼吸が取れなくなった。

 僕は意識を失う直前、タケチがニヤついているのが目に入った。


 目が覚めると、僕は医務室のベッドの上だった。

 保険医の先生に回復魔法をかけてもらっていたので、すでに痛みはなかった。

 でも、僕は理解できずに気が滅入っていた。

 僕は帰り支度をするために、肩を落として教室に戻った。


「何や、マンジ。もう起きたんかい?」


 タケチが他の留年生達と笑いながら話をしていた。

 僕が教室に入ってきたのを見ると他の留年生達と意地悪く笑った。


「タ、タケチ君。ど、どうして……」

「ひゃはは! どうしても、クソもあるかい! ワレみたいに甘ったれた僕ちゃんが嫌いに決まっとるからやないけ! それにのぉ、ここは戦場と同じや! 上に上がるための競争や! 手段なんぞ選んどる場合やあらへんわ! 騙される方が悪いんじゃ!」


 これで、僕にもやっとわかった。

 始めから、僕をハメるつもりだったんだ。


 クソ!

 僕は拳を握りしめた。


「何や、やるんか? ええでえ、かかってこんかい!」

「く、うう……」


 でも、僕は3対1で勝ち目がないと諦めてしまった。

 ただ、その場に立ち尽くしていた。


「け! やり合う度胸もないんかい! ホンマ、ワレ才能ないわ! さっさと学校辞めえや!」


 タケチたちは、外から見えないところを痛めつけた。

 そして、倒れた僕にツバを吐いて、笑いながら帰っていった。


「ち、ちくしょう……」


 僕には、一人で泣くことしか出来なかった。

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