第二章 青と赤の少女(3)
ラスタスは、聖堂で祈りを捧げる。
祭壇の前面の壁には、高い位置に円い窓が取られていた。そこから差し込むやわらかな光が、祈る者を優しく包みこむ。
正円は、この世界において最も聖なる形であり、この教会でも尖塔をはじめ、あちこちに円を象ったオブジェが掲げられているのだ。
ラスタスは祈る。膝をつき、両手を合わせ、
―どうか、どうかミランダが無事でありますように―!
聖堂を出ると、強烈に眩しい日差しが飛び込んできた。
森の青々とした緑も、庭園の色とりどりの花の色も、目に鮮やかで。しかし、ラスタスの心は晴れなかった。
ふと見上げると、天には真っさらな青が果てしなく広がっている。哀しすぎるくらいに。
べったりと塗り込めたような、あるいは色紙を貼り付けたような、混じり気のない、青。
それがとても寂しかった。
結局、教会でミランダについての手がかりを得ることはできなかった。
多少の期待がラスタスの内にはあっただけに、落胆めいたものが心のなかを覆っていた。思わず、力のない溜息が漏れる。
しかも、シスターに余計な心配をかけてしまった。もしかして行かない方がよかったのではないか…。そんな思いさえ持ち上がってきた。
教会の敷地から出ようとしたそのとき、再び、赤と青の双子を見つけた。
「ラスタス」青い髪の少女が言った。
「ラスタス」赤い髪の少女が言った。
「シアン…、マゼンタ!」
ラスタスは微笑んでふたりに近づき、背をかがめて応える。
「名前を覚えてくれて、ありがとう」
「もう帰るの?」シアンが尋ねる。
「また来るの?」マゼンタが尋ねる。
「うん。いつになるか判らないけど…」
「また来てね」シアンが言った。
「待ってるね」マゼンタが言った。
その言葉に、励まされた気がして、ラスタスは破顔した。
「うん、また来るね、ありがとう。じゃ…」
ラスタスは二人の肩をぽんと叩くと、立ち上がり、教会を去った。
終始、無表情に近かったシアンとマゼンタ。恐らく、自己を表現するのが苦手なのかもしれない。
でも今日会ったことで、軍人である自分に対して、少しでも警戒が解けたなら…。
また会える時が来るだろうか。
限りなく黒に近い紺碧の軍服を身に纏い、背筋をしゃんと伸ばし、長い髪をなびかせながら去っていく女性軍人の背中を、シアンとマゼンタは小さくなるまで見送っていた。
―また来てね、必ず来てね―
待ってるからね―
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます