夜 中毒

 我に返るとゴミのように捨てられていた。実際ゴミなのだろう。散々犯された後に地べたに投棄され、ろくに身動きを取ることすらできなかった。ここがどこなのかハッキリとは思い出せない。山林であるようだ。視界の隅にコテージが見える。そこに持ってかれ、薬を打ってもらったことは覚えていないがわかる。

 体中にこびりついた精液が不快だが拭うこともできない。拭う腕がない。手足などとうの昔に失った。薬漬けの眠り姫は頭さえあれば十分で、だから後は何をどう遊んでも問題ないという訳だ。それに本当に手足が必要になったら電子義肢を装着すれば事足りる。まあ数えるほどしか装着したことはないが。薬で狂った頭と穴だけが私に残った価値だ。薬を打ってもらえるためなら本当に喜んでなんでもやれる。犬畜生とも交わるし、汚物だって喰らえる。右脚は不味かった。

 だから輪姦されて捨てられたとしてもそんなことは気にする必要はない。気にする、必要はないのだ。

 ぽつりと頬に水滴があたる。雨だ。雨を感じるのはいつ以来だろうか。記憶になかった。薬でぐちゃぐちゃになった脳味噌に在りし日の過去など殆ど残っていない。家族の顔と名前すら記憶に残っていないのだ。でもいたことは間違いない。飼主が以前言っていた。高い所から堕としたやつの夢の方が質が良いと。だから私にはきちんとした家族がいたのだろう。

 苦しかった。何もないことが苦しかった。薬がないことが苦しかった。あの蕩ける悦楽がないことが苦しかった。薬が欲しくて苦しかった。狂ってしまいそうで苦しかった。気がつけば惨めさに泣きながら薬が欲しいと希っていた。山林で手足のない芋虫のような女が精液まみれで泣いているのだ。そう思うと可笑しくて可笑しくて号泣した。薬が欲しいと虚空に懇願した。虚空だったが切実に願えば薬が与えられる可能性が皆無とは言えないので懇願した。のたうち回った。そのうちこの地べたに薬が混じっている可能性があることに気がつき土くれを喰らった。雑草を喰らった。不味かった。急激に動いたのがよくなかったのか吐気がこみ上げてくる。こらえきれずに嘔吐する。嘔吐した吐瀉物には昨夜打った薬がまだ残っているかもしれないと気づき吐瀉物を啜る。吐瀉物の不味さと酸味に耐えられなくてまた嘔吐とするがそれも啜る。薬が欲しかった。薬が欲しくて苦しかった。苦しくて狂ってしまいそうだった。狂ってしまいそうで狂ってしまって薬が欲しかった。吐瀉物に顔面をつっこみ土下座する。自分に残った価値である頭蓋を下げる。薬が欲しかった。

 やがて足音が近づいてくる。足音の主は穢れた私の体を抱きかかえ、コテージへと連れて行く。チャカだ。他の世話係はついでとばかりに私を犯すこともあったが、チャカはそのようなことはしない。律儀だからかもしれないし、事後の私が余りにも汚いからかもしれない。どうでもいい。薬が欲しかった。

「薬、ちょうだい」

「また夢をみる時に」

 ああ、よかった。薬が貰える。私はおぞましい寒気に包まれながら安堵した。

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