夢 踊るパンダ

 くるくると回っている。

 白一色のパンダと黒一色のパンダが回りながら踊っている。

 回っているのはパンダが踊る舞台そのものが回っているからだ。やがて舞台が大きなレコード盤であることに気がつく。二頭のパンダは鈍く光る黒いレコード盤の上で踊っていた。なんの踊りかはわからなかった。本当に踊りかもわからなかったが踊りだと思った。パンダの踊りはつたなく、決して上手くはなかったが、それでも見る者を惹きつける何かがあった。何度も同じステップでつまずくなど、見る者をうんざりさせる何かもあった。

 くるくると回っている。パンダは踊っている。時折レコード盤の回転に負け、転びそうになる。その都度、自分でこらえたり相方のパンダに支えてもらったりしている。

 レコード盤には針が置かれており、音楽が鳴っている。思わずその音楽を口ずさもうとしたところで、はたと気づく。音楽が鳴っている。鳴っているはずだった。パンダは音楽に合わせて踊っている。陽気な音楽だった気がする。悲しい音楽だった気がする。けれど何も聞こえなかった。

 くるくると回っている。聞こえない音楽が鳴っている。パンダは踊っている。その無様で美しい踊りをもっとよく見ようとして、けれどもそこには何もなかった。レコード盤もパンダもなかった。いや、私には見えなかった。

 私は何を見ていたのだろう。私は何を聞いていたのだろう。私に目はなかった。私に耳はなかった。何かを言おうとして、私に口はなかった。

 何よりも私はなかった。 

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