Code_2『終末』茉園香里
季節は常春(とこはる)。暖かな陽気に緩い風。
鳥はさえずり、川はゆったりと流れて、川原には色とりどりの花が咲き乱れている。
そんな春の風景の中、キラキラ光る川辺をゆっくりした速度で一台の自転車が走っていく。
その名はパニック茉(まつ)園号(ぞのごう)。
赤い車体と広々としたフロントバスケット。三段階変速機付きで、後輪上部の荷台には大容量コンテナを搭載。
パニック茉園号は主人の足並みに合わせ、きーこーきーこーとチェーンの音をかき鳴らしている。
春風と並走するような、麗(うらら)らかな朝の通勤風景だ。
話のメインはその主人。
パニック茉園号にまたがる彼女。
動力源にして操縦士、その所有者は二十代前半くらいの女性。いや、女の子と言った方がしっくりくるだろう。
バラ色の頬に優しく下がった目と眉毛、常に機嫌良さそうに上がった口角。おっとりとした顔の代表作みたいな彼女は、緩く巻いた亜麻色のミディアムヘアーと、ピンクのひらひらスカートを春風になびかせ、ふんふんと陽気に鼻歌を唄っている。
彼女とパニック茉園号は草花咲き誇る川原しかない田舎道を走ることしばらく。
四角い建物が乱立する街へと吸い込まれて行った。
ーー
おはようございます。
私は茉(まつ)園(ぞの)香里(かおり)。
みんなからは「まっちゃん」の愛称で呼ばれていますが、どうぞあなたの好きなように呼んでください。
ここに来るのは初めてですか? じゃあ私が少し案内してあげましょう。
ここは私の働く三途(さんず)学研都市。
広い敷地には研究施設や学校がたくさん建っている学生と研究者の街です。
ところで、あなたは「三途の川」って聞いたことがありますか?
実はこの三途学研都市の中心地、蓮(はす)葉(ば)町には「輪廻の流れ」っていう地獄から天国までを上昇する川みたいなところがあるんだけど、それが人知れず三途の川って呼ばれる有名スポットになったの。
ほら、遠くにひゅーって登っていく光の筋が見えるでしょ?
あれです。
管理人のおばちゃんとか清掃員のおじちゃんとかはいるけど、現世の伝承にあるような鬼やら追剥(おいはぎ)するおばあさんは今はいないよ。
あ、ちなみに私がさっき通ってきたのは普通の川です。
この三途学研都市は、研究都市ってだけあって研究棟や図書館、学校などの教育機関がいっぱいあります。私はその中の終末研究実験棟のD棟でお仕事をしているの。
私の仕事部屋は『D_1~1000 分離室』
検体倉庫を兼ねた実験室で、私が回収したサンプルがたくさん保管してあります。
私はここでCode Dの1から1000を対象に研究しているのです。そして、分離室っていう名前の通り、ここでは私が回収した検体から、ある大事なものを取り出しています。
研究棟の横にある駐輪場にパニック茉園号を停めて、研究室のある五階まで昇降機を使わず階段を軽快に上っていく。
扉に『D_1~1000 分離室』の表札がある研究室。
鍵を開けて扉に掛けていた研究用の白衣に着替える。
今日のスケジュールは。
昼までに三つの検体を分離器にかけて、
食堂でランチ。
午後は現世のCode D_4の担当書記、総司君に会いに行って、
夕方五時からCodeD_48のサンプル回収。
帰ってきて精製物を保管庫に仕舞って終了。
「よし、今日も頑張ろう!」
さっそく棚の中から今日の対象検体を取り出した。
牛乳瓶のようなフォルムの試験瓶の中で、淡くきらめく気体が渦を巻いている。
これは吐息。
ここは最期の息を保管している場所。
私は亡くなる人の最期の息を引き取る者、
『終末』
ーー
私が『終末』になってからまぁまぁの時間が過ぎましたが、今も昔も、私の仕事始めは一杯の紅茶から始まります。
お湯が沸いて紅茶が蒸れるまで、少し真面目に私の仕事内容を話してあげましょう。
『終末』のお仕事は、現世で生死の境目に吐き出される吐息の回収をすること。そして吐息に混ざった魂の残渣を精製し、抜き取った純粋な魂を輪廻の流れに戻すことです。
七天の中では唯一の研究職で、ちょっと専門性の高い仕事なんだよ。
よく『天使』の仕事と何が違うのと言われるけど、私たち『終末』が回収するのは魂じゃなくて最期の吐息なの。
人が死ぬ時によく息を引き取るって言う、あれね。
吐息の中には誰かに思いを伝える言霊や、肉体の活動を刺激する成分が含まれていて、それを分離させて流れに還すのが『終末』の仕事。
まぁ、調整役って感じかな。
なぜこんなことをするのか。
それは、魂は完全体にならないと現世に戻れないから。
魂が欠けていれば転生は停滞し、流れは淀み、魂は腐っていくの。
一度腐って止まってしまえば、もうその魂は二度と流れない。
そういえば、魂には二種類あるということを知っていますか?
一つは現世に生きる人の持つ魂。
もう一つはその人の人生を記録する『書記』の魂。
これらは二つで一つ。
よく勘のいい人が、あなたの後ろに守護霊が見えるとか、イタコさんにエクスペクトパト○△ナムされたりとか、ちょっと死にかけた時になんだか一緒にいてくれる人とか、倶生(くしょう)神(じん)とか呼ばれるアレとか。だいたいそれらがそうなのです。
魂の一つは現世で人生を生きて、
そしてもう一つの魂は片割れに添う『書記』として勤めるの。
時に役割を交代するけど、二つは決して交わることはない。
だから死んだ人間の魂と吐息の回収、精製が失敗すれば、魂は転生出来なくなる。
そしたら片割れの『書記』の存在も消えてしまう。
つまり、片割れの魂が消えたとき、永劫存在し続けるはずの使者の寿命の針が動き出すの。
それからの『書記』の選択肢は二つ。
寿命の針が回りきり、自身が消滅する自己昇華の時を待つか、『書記』以外の使者になって、新たな使命を負うか。
私の見てきた中では、圧倒的に前者を選ぶ者が多かったわ。
何度も片割れの死を看取り、その度に私達が使命を遂行する姿を見ているんだもの。
それは過酷で、時にあまりにも残酷。
魂の回収者など、そんなものになりたくはない。
ならばと、自身の時間切れを待つ者を何人も見てきた。
永遠に後悔と責務を負う道に進む者なんて気が狂っているとしか言いようがない。
まあ、私もそんな気違いの一人なのだけど。
ビーカーとバーナーで沸かしたお湯が、早く仕事を始めろとぼこぼこ文句を言ってきた。
私はバーナーの火を止めて、紅茶の葉を浸け込んだ。滲む赤茶色がゆらりと揺らめき、ゆるく渦巻きながら赤色を拡げる。
あと三分ね。
その間だけ私のお話に付き合って。
それじゃあ立志編、スタート!
それはだいたい千年前、私の片割れは堕胎して吐息の回収が出来なかった。
『書記』だった私はそれにすごくショックを受けて、自分の寿命を待って消えることを望んだの。
浄土の『運命』に昇華届を提出して、何もせずにせぼんやりと過ごしてた。
でも、あと少しで昇華してしまうって時になって、自分の存在が無くなってしまうと思ったら、迷ってしまった。
どうしようもなく怖くなって、同じ七天の『運命』を務めている賢(けん)輔(すけ)さんの所に相談に行ったの。そしたら賢輔さんは「お前は筋が良い、望めば何にでも成れる」って言ってくれて。
褒められて、嬉しくて使者になる道を選んだ。
本当は選択可能な実務の中では、デスクワーク一筋の『運命』を第一希望にしてたんだけど、『運命』になるにはかなりの才能とキャリアが必要だって賢輔さんに言われたの。
実際、『書記』がすぐになれる実務職は『終末』、『死神』、『天使』、『忘却』、その他のスタッフのどれかって暗黙の了解で決まっているみたい。
この中で最も難しい職業が『死神』。
心技体、全てがオールマイティに備わった者でも熟(こな)すのは至難と言われている難職。
同じ七天の紅(こう)紫(し)くんが軽々と大鎌を振り回すの見て、「あ、無理。」って思ったもん。
あと服装も無理。
『天使』って響きに憧れはあった。
ふわふわできらきら。
でもその仕事って、結構フットワーク命って所があって、毎回天ちゃんが段ボール担いで天国まで行くの見て、「あ、ダメ。」って思った。
『忘却』はね、はじめから頭に無かったよ。
だって私ハウスダストアレルギーだもん。
だから、たまにダイソンと会った時は涙と鼻水が止まらなくて、「やだ、来ないで」って、いつも心の中で思ってる。
かくして、私は七天の中でも筋力・体力を使わない、衛生的でデスクワークもある『終末』を選んだ。
専門性のある仕事だから、試験に合格するのは早くても一世紀はかかるって事務長が言ってたけど、賢輔さんの指導のおかげで、十年くらいで試験に合格出来たの。
そして念願のD棟に配属されて。
今に至ります。
あ、ちょうど三分。
じゃあ私はお仕事に入るから、続きはそうね、ランチが終わった後でね。
ーー
都市に隣接するベッドタウンのとある団地。
十階建てのアパートの七階。
エレベーターから降りて真正面にあるちょっと手狭な2LDKの一室。
その寝室には二つの人影。いや、世間一般の目はこれを一人と表記する。
「縁(よすが)ちゃん、ほら、もう泣かないで」
セーショーこと枕(まくら)野(の)総司(そうじ)は、ベッドに伏して泣きじゃくる音(ね)重縁(しげよすが)の隣に座り、ずっと慰めの声をかけ続けていた。
「高志(たかし)のバカ、連絡くらいしてく、れても、よ、よかったのに」
嗚咽(おえつ)をあげながら彼氏だった高志さんを詰(なじ)る。家に帰ってからずっとこの調子だ。
「そうだよね、二時間も雨の中に待たせて、電話もすぐに切ったしね」
「もう絶対に許してあげない」
「そうしな……って僕が言っても、またすぐにヨリを戻すんだろうけど」
「……」
僕らは会話している訳ではない。
縁ちゃんは僕の存在を知りはしない。
お互い、ただの独り言だ。
その後も元カレの悪態を吐き続けていた縁だが、一人で怒るのも虚しくなったのだろう。泣き疲れてくたくだった事に気づき、そのままふて寝をしてしまおうとしている。
微睡(まどろみ)に取り憑かれた瞼は今にも閉じてしまいそうだ。
「明日は仕事だもんね、今日はもう寝ようか。お風呂も明日入ればいいよ」
自分はよしよしと縁の頭を撫でてやり、最近一緒にテレビで見た流行りのバラードの旋律を口ずさむ。
閉じてしまった縁の瞼、震える睫毛は拭い損ねた涙でまだ濡れている。
「おやすみなさい」
彼女の頬に残る涙の筋。
消してやろうと親指で擦(こす)ってみたが、跡は消えず何も変わらない。
僕は彼女に触れられない。
彼女は僕の姿が見えない。
彼女に僕の声は聞こえない。
人にとっては、ただ寄り添うだけで安心できるものがある。
それは他人だったり、他人との繋がりだったり、ペットだったり、ぬいぐるみだったり。
でも、自分がどんなに寄り添っても、自分は彼女にとってそのどれにも該当しない。
彼女は自分を知らない。
もう何度も経験した。存在を認知されない事はこんなに空しく、ひどく辛い。
彼女のことをこんなに大事に想うのに、自分が何の力にもなれないなんて、ぬいぐるみよりも力になれない存在だなんて、考えたくもない。
すやすや穏やかな寝息を立て始めた縁の頭を撫でながら、はぁ、と深い溜め息を吐いた。
「総司くん、溜め息、重たいよ」
「あっ、まっちゃん。来てたの」
顔を上げると、目の前に心配そうな顔をしている女の子の姿があった。
ミルクティー色のミディアムヘアーを耳の横で一つに結び、爽やかなミントグリーンのワンピースを涼しげに着こなした彼女。
彼女は同じ七天の『終末』を司る茉(まつ)園(ぞの)香里(かおり)、通称まっちゃんだ。
「いらっしゃい、もしかして待ってた?」
「ううん、さっき着いたばっかりだよ」
自分は居住まいを正して立ち上がり、リビングに香里を案内する。そして二人掛けの食卓に座って、今回彼女が訪ねてきた目的について話を始めた。
「あのさ、まっちゃん、斎藤さんから何か詳しいこと聞いてる?」
「……何も。賢輔さんは今回の件、まだ紅紫くんに伝えただけのことしか決めてないみたいだよ」
「じゃあ、死因になる事故の詳しい内容もまだ分からないんだね」
自分の言葉に香里は浅く頷く。
やっぱり進展なし。
はぁ、と。また深い溜め息が漏れる。
「あーあ、嫌だな。縁ちゃんの人生、これからだっていうのに」
「……うん、でも仕方ないよね」
しんみりした雰囲気が訪れたとき、寝室から縁のすすり泣く声が聞こえた。
「縁ちゃん!」
はっとして立ち上がり、縁の様子を見に駆けた。
香里が自分の後を追うように寝室へやって来る。縁は夢を見ているのか、目を閉じたまま泣いていた。
「総司くん、大丈夫?」
「あ、ゴメンね。彼女こうなるとバサバサに荒れるから心配でさ」
「妊娠すると精神的に不安定になるっていうしね」
「そうだね、でもまぁ、縁ちゃんはまだ自分が妊娠してるって知らないからね」
かく言う自分も数日前にお腹の子の『書記』が挨拶に来て初めて知ったのだが。
自分はいつもやっているように縁の背中を布団の上から優しく叩く。
「新しい『書記』の子、来見ちゃんだっけ。三途(さんず)の学校に来てるよ。私の所にも挨拶に来てくれたの」
「今が一番の頑張り時だもんね」
『書記』は受胎告知とともに配属が決まる。
そして産まれるまでの間、三途学研都市で現世の勉強をしたり必要な書類の作成、関係各所への挨拶をするのだ。そして出産の七日前から現世に下り、その誕生を待つ。
「元気で可愛い子だったよねー、メールしたら今度会いに来てくれるってさ」
「ふふ、彼女、総司くんみたいな人が同じCodeで良かったって言ってたよ」
「えっ、ホント? なんか嬉しいな」
この前のメッセージ、ちゃんと読んでくれたんだ。そう思うと顔がにやけてしまう。
縁ちゃんの涙も収まったところで、香里は「じゃあ」と暇(いとま)を切り出した。
「あ、もう帰る? あんまり落ち着いて話せなくてごめん」
「ううん、総司くんも大変だと思うけど無理しないでね」
香里は持っていた研究用の白衣を羽織ると、身なりを整えて玄関に向かう。
「ありがと。まっちゃんも仕事頑張ってね」
「うん、最終宣告の日に、また来るから」
自分は頷いて香里を玄関まで見送った。
しばらくして窓の外を見ると、すっかり晴れ上がった空の下。確かスランプ茉園号だったか…赤い自転車に乗ってゆっくりと走っていく香里の姿が見えた。
後部座席に取り付けられた黄色のコンテナには吐息の炎を回収するための試験瓶が積んである。
一昔前はカンテラ型が主流だったが、あの牛乳瓶の様な試験瓶はまっちゃんが開発したらしく、広口で吐息も回収し易く耐久性に優れているという事で『終末』の間で標準装備されている一品とのことだった。
『終末』って結構忙しい仕事なのに、研究に開発、論文発表までこなして、さらに女の子を満喫しているまっちゃんのポテンシャルの高さにはみんな一目置いている。
帰り際に『終末』の制服である白衣も着ていったし、おそらく、まっちゃんは今から回収の仕事に向かうのだろう。
「大変だなぁー」
今まで自分が『書記』をしてきて、余命の宣告がある度に考えていたことがある。
それは、七天の使者の仕事内容は主に「始」より「終」に重きを置いていること。
確かに生者の世間一般でも、結婚式や出生の節句やらの祝(いわい)は出席できずとも、葬儀の斎(いわい)は無理を通してでも出なさいと云われている。
生を寿ぐより、死という絶対的な別れに立ち会うことが重要なのも生前より理解している。
なのに自分はそこに腑に落ちない何かがある。
僕を含め七人の作業員が魂を滞(とどこお)りなく流すこの効率的循環計画を僕たちはデスプロジェクトと呼んでいる。この魂の循環計画はその名の通り「死」に対する終わりを前提にした計画だ。
一つの魂を再利用するラインを簡単に説明すると、まず対象の死亡を決めた『運命』が『終末』『死神』『天使』『書記』に最低二回の死亡予定の通知を入れる。
死亡予定に合わせ彼らは段取りを話し合い、予定日に息と魂と記録を回収する。
そして『忘却』が周囲の対象に対する思いの整理をして、『歴史』がどこかでそれらの観察をする。
旧い「死」を新たな「生」に円滑にシフトするためという前置きもあるが、「生」を定めるのが『運命』一人に対し、「死」という行程は『歴史』を除く六名の手を渡る。
なぜ新たに産まれるのは容易く。
終わることへの処理はこんなに大儀なんだろう。
死は生命の自然な終了を意味するらしい。
自分たち使者の存在は自然現象の一部にカテゴリ分けされるのだが、これだけの自然現象を束ねて生を完遂させ次に進ませるこの算段は天文学的な奇跡に等しい現象だと思う。
死ぬことが奇跡だなんて……
そんな戯事(ざれごと)を考えてしまうのは、決まって片割れが死に向かう時。
結局は、この目の前の命がまだ続いてほしいと願っている時だ。
「縁ちゃん。君はまだ生きたいと思う?」
規則正しく胸を上下させる彼女にそっと尋ねる。
微かに頷いたような気がするのは、自分の希望的観測による誤認だろう。
だってこの声は君に聞こえやしないもん。
「あのね、僕はまだ続くと思ってたんだ」
よいしょとベッドの横にしゃがみ込み、眠る縁の横に顔を伏せた。
例え彼女が眼を開けてもこの姿は見えないし、その瞳に自分の姿は映らない。でも自分はずっと君の成長を見続けてきた。
そして、もうすぐそこまで来ている。
君の姿が見えなくなる日。
「だって、こんなの悲しいだけじゃないか」
そのリスクを負う最期の日。何より辛い傷を負う日。自分は、君の寿命を知っていてその日を待つだけというのががもどかしい。
君が何も知らずに最期に向かうことが悲しい。
そんな運命に従うことしかできない自分が厭(いと)わしい。
何より、彼女を失うのが怖いんだ。
そして、運命の束縛から逃れ、その瞬間から逃げ出したいと思っている。
かみやんに宣告された時はどこか他人事のように聞いていた。だけど、今となってじわじわと実感がわき起こってきた。
「ねえ、縁ちゃん。僕だけは、まだ続けって願ってもいいかな?」
その言葉に彼女はこくりと頭を揺らした。
これもまた自分の都合のいい幻覚。
ただそんな気がしただけだ。
でも、例えば、彼女にこの声が聞こえていたなら、彼女は頷いてくれたかな。
彼女なら頷く気がした。
頷いてくれる気がする。
たぶん、絶対。
そう思いながら眠る彼女の手を握って、自分もそっと瞼を下ろした。
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