答え・1-2
「ええ、その通り。絶対の観測とは現象の解明とそのままイコールですから……。シィライトミア家の抱える秘密の事業であったそれに私が関わることで、確立が、不定から一へ繰り上がった。値崩れしない程度に売って得た金銭を
あの日驚きを覚えた、シィライトミア家の、常識より遥かな大所帯。
その財政潤沢の秘密。
国の衰勢すら掛かった機会に、貴方こそ国の唯一と白羽の矢が立つ程の地位を確立させた、成功の源泉。そこに白翼を持つ天使が知恵を授けて、一時、巨億の富が湧き出した――。
「肉体の成長機能を備えたバイオヒューマノイドは、テレイグジスタンス素体を新調しなければならないという問題こそ解決されますが、その性能分、一体に見る試算はノーマル素体のそれより多分に高額です。実現のための費用もかさむことは避けられず、金銭面の問題解決には繋がらないでしょう。開発資金の落としどころ。――その解答だけは、どこにも、見つけられなかった」
不定を一にする御業の行い。
アーゼルアクスの後ろ盾。
それらの他にも、東奔西走、多くを望もうと懸命しただろう。もしかすれば……今回の、婚約騒動のことすらも――。
シュリフの浮かべた微笑みは、それの知れる情の顔であった。
リプカはただ、歯噛みする他ない。
「最初からそのことを明かさなかったワケは何でしょう……?」
「成り行き上、こうなったとしか言えません。
「…………」
正直、それでも「存在していてほしい」と言いたい――。
けれどそれを言うには、影の向こう、矜持という輪郭の先に、貴方の姿を見つけてしまったから。
そして知った理知を通して世界を視る者は、全てを手にするだろう。ただしそれは可能性の話であり、世界は再び理性を人の選択として問い掛けてくる。
一度知った理性を手放せるリプカの人柄ではなかった。だからもう、言えることは何もない。
「――どこへ辿り着くのかは、私にも分からない。けれど、もう来たる未知を恐れることはやめて、私はそれを受け入れます」
然るに、後は行動をもって世に意味を示すしかないのだから。
「――言葉で言うほど、簡単なことではありませんよ?」
「それはどうあれ、結果が証明するでしょう。でも、私、頑張ります。――だからミスティア様」
リプカはちょいと背を丸めて視線を合わせて、シュリフたるミスティアへ、微笑みかけた。
「事の果てに私が作る、機会の
背を向けてどこかへ行ってしまったらとても悲しいですから、と――近衛という絶対防衛の約束たる矛の衆を手札に押さえた少女は、茶目っ気を交えながらそれを伝えたのだった。
シュリフは瞳を瞑ったまま、また大空を見上げた。
「どんな行く先が待っているのだろう。私はそれを恐れていて、そしてやはり――その恐れをどうしてか少し、愉快に思っている」
(…………)
思い馳せる彼女を見つめながら、リプカは一瞬だけ、シリアスから少しだけ離れた、微妙な心情に揺れた。
一応のこと明かさなかったが――はたしてシュリフが企てた賭けに意味があったのだろうかということを、心中では考えていた。
というのも――。
(あれは、未来を見通されることを前提で考えたコトだったから……)
てっきり、一から十まで全部を承知しているものとばかり思っていたから、そういう意味でも、賭けを仕掛けたという話には面食らっていた。
(ミスティア様がそれを知っていたら、どのようにか未来は変わったのだろうか――?)
そんなことをぼんやりと思った後に、リプカはシュリフの肩をちょちょいと指で叩くと。
はてなとこちらを向いた彼女に顔を近づけて、その頬に、柔く口付けした。
「ミスティア様。貴方様との口付けで私が感じたことのように、どうか私のこの熱も、そのように感じ取ってくださいませ。――私、頑張りますから!」
「――残念ながら、この半端なテレイグジスタンス素体に体温感知の機能は備わっていないので、それは無理な相談かもしれませんね」
「あっ――。そっ、そうですか……! …………。――そ、そこで突っぱねなくても……いいのに……」
なんとなく意趣返しみたいな内情を感じた意地悪な台詞に、拗ねてシュンと項垂れたリプカの、小物感溢れるちんまい表情を窺って。
シュリフは、色香の薫る苦笑みたいな美人の顔で、おかしそうに笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます