リプカの計画・1-2
そんなふうな閑話を挟んだ後も、せっかくだから辺りを散策がてら観光しましょうかと、なんとなし、しばらくそれもまた閑話のような時間を過ごした。
サキュラと手を繋ぎながらのんびり歩きながら、
活気に溢れる二点の交通路に在ることで、若者が多く足を運び――故に若者が足を止める。ただの通過路ではなく、ここで昼食でもとっていく? なんてカジュアルを思えるのは、そこに、自分の内にある
大聖堂の神聖な雰囲気は素敵だけれど、近寄りがたい堅さがあるのもまた事実。そこを、若さに溢れた街を行き来するその人たちの大勢こそが、堅い印象を払拭するに一役買っている。昼時のこの場所を実際に見ると、なるほど、アンの言うことも良く分かるというものだった。
(羽を休める場所だと判断されるかどうか。――なるほど、それは難しく、そしてこの立地は妙手です)
老若男女があり、ファミリー、友達、恋人、お一人と、連れ添い方も多種多様、そして皆がのどやかに食事を楽しんでいた。
宗教といえど金銭との縁は断ち難く、その点、シィライトミアの大聖堂は集客の万全のみならず、高水準の立地効果をも生み出していた。商魂逞しい飲食店は客入りの争奪戦を繰り広げながらも、どこも盛況の賑わいが窺えた。
(ただ……そんな中で、エレアニカ連合の料理を扱う先程のお店だけが程々の客入りであることが気になる……)
一番注目されるべきお店なのに……。
と、そんな感想を思いつつ。
散策がてらの観光は、何らのハプニングもなく、特に学びといった何かもなく、長閑なものだった。
「リプカー、しゅわしゅわ飲みたい……」
「んー……、今日はガマンの日にしましょうか」
「えー……」
ベンチに腰を降ろし休みながら、皆一息ついた後、リプカはアンへ話しかけた。
「アン様、先程のミスティア様ですが……影武者ってことは、ないですよね……?」
「影武者?」
「ええ、なんだかどんどん印象がカジュアルに寄っていくことが、ふと、不安に思えてしまって。大聖堂に色付いた景色を見回っていたら、カジュアルの印象には理由があることを実感したから、そのことが気になってしまって……」
「ふむ。まあ無いとは言い切れませんが、私が知る限りは影武者など存在しません。あんな感じでしょう、見た目が近くても求められる演技力のほうがね。念押しますが、100%無いとは言い切れませんけれど……単純に、状況が佳境で、自分を駒として使わねばしのげないほど切羽詰まっているだけだと思いますけれどね。あの女が自分自身を駒として使うこと自体は、そんなに珍しいことでもありませんし」
「そうですか……」
「あの女が大変な状況に陥っていると思うと、気分も良くなる。先程の料理にだって、あの無味乾燥に甘い塩気を感じていたくらいです」
サキュラの失言を超える最悪な食レポを言いながら、アンはリプカのほうをちらりと窺った。
「疑問はそれくらいです?」
「え?」
「いえ、セラフィ令嬢の問題にあれだけ深刻を抱いていたのに対して、あの不可思議女に対する関心は、ボルテージ低めだなと思いまして」
「ああ――。ミスティア様に対してのことは、もう、すべきことが明確ですから。あとは……それが結果に繋がるか、どうか。でも……それすらも、ミスティア様の想定の内なのか……」
「へえ。どのようなことをするつもりか、聞いても?」
「私も……聞きたい……」
「私も。下世話なようですがとても、関心がありまして」
「ええと――。わ、笑わないでくださいね……?」
身を乗り出してきた三人方へ、リプカは――シィライトミア邸に赴くにあたって取った、大馬鹿者の選択肢、そこから
「――ということを、私は構想として、思い描きました」
リプカはそうして、三人に伺い立てるような姿勢は見せず、ただ言葉を結んだ。
オーレリアとサキュラは話を聞き終えると――ただぽけーっと放心の表情を浮かべて、言葉も継げないでいた。
その中で唯一アンヴァーテイラは、フッと息を漏らし笑んで、瞳を瞑って頷いた。
「――いいんじゃないんですか。なるほどね、面白いし、理由も明確だ。上手くいくといいですね」
「はい」
「さて……。――ではまだ時間もあることですし、また少しばかり、遊んで回りますか?」
アンからのそんな提案に小さく驚いたオーレリアとサキュラ、そして微笑んで立ち上がったリプカ。
立ち上がった、その身に宿っていた熱。
なんだか少しだけ前向きな活力を感じて、これが希望と言うのだろうと、そんなことを考えた。
「では、しつこいようですがマストでしょうっ! まずは殿方を誘いにいきますよ、ここならより取り見取り、鯛や平目も舞い踊るってね!」
「いや高らかに宣言しても駄目です。しかも大聖堂という場所で、その……そういうのって、いいの……?」
「まあ、大聖堂内でのナンパ行為でなければ……問題はないですが……」
「ならよしっ。まあ何かあったらが心配だというのなら、ここは教師様を誘いますか?」
「い、いいの? 倫理というか……あの、そんな感じの……」
「まあ……問題はないですが……」
「ならよしっ」
「アンは、元気だな……」
――裏のミスティアと話す中で、その構想が通じるのか、今までそれを不安に思うことは幾度もあった。きっと、この先も、それは危惧し続けるところだろう。
しかし。
もしも。
彼女の中に、僅かでも人間があれば。
私の思い描きは現実になる。
リプカはそのように思うと、服裾を小さく引いた手を取って。「行きましょうか」と声をかけてくれた少女に笑みかけて。暴走する約一名へ制する声をかけながら。――それらの特別な意味を噛み締めて、その後を追った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます