第百七十四話:リプカの計画・1-1

「…………」

「…………」

「…………」

「……あの、皆様、無理して食べることはありませんから……。エレアニカ連合の文化を知ろうとしていただけただけで、十分、嬉しいのでして……」

「いやもう運ばれてきちゃってますし。やっぱりエレアニカ連合の食は難しいですねぇ」


 小皿が多く並べられたテーブルを前に、皆、とても微妙な表情を浮かべていた。


「リプカ、お腹減った……」


 時間を戻して少し前、サキュラがリプカの服裾を引いて空腹を主張すると、そういえば自分の腹もそんな頃合いだと、リプカら三人も顔を見合わせて、そんなわけで昼食の席を皆で見繕っていたのだが――。


「エレアニカ連合の、郷土料理……。食べたことない……」


 サキュラが注目したのは、【エレアニカの教え】の大聖堂が立つ、この地ならではの看板であった。


 興味を魅かれるのも自然なことだった。ただ――。


「――サキュラ様、エレアニカ連合の郷土料理は……その……。少し馴染みにくいところが……あるかもしれません」


 言葉を濁して注釈するオーレリアのみならず、アンも、そしてリプカも、ちょっと思うところあるという顔つきになっていた。


 しかしサキュラにとっては初めての異国料理である、当然、自然と「でもここがいいな」という話になって、そうなると制止の言葉や断りなども出づらく、オーレリアは憂慮を、リプカとアンは妙な無表情を浮かべながら店に入ったのだが、まあ、結末は、案の定という話で――。


 立地に関わらず、辺りを見回してもエレアニカ連合の料理店がここだけであったことに予感を覚えた、リプカの察知は当たっていた。


 トマトを卵に和えた、胡椒の利いた炒め物が一番美味しかった。

 他は……素朴で優しい素材の味は、優劣つけがたく、つまり、端的に言えば、あまり食は進まなかった。


「ごめんなさい……」

「いや謝るのは失礼だからな」


 ゼロテンションのサキュラはついに、顔を俯けて謝りの言葉を口漏らして、その粗相にツッコんだアンもアンで、もう無理矢理にモノを口に押し込めて処理している最中であった。


 オーレリアは頬に汗を浮かせて俯いてしまった。


「あの、一応、言わせてくださいませ……。本場のほうは素材の味を活かすことを得意としておりますので、その、もう少し、……味がありまして」

「ごめんなさい……」

「だ、大丈夫でして、気にすることではありませんからっ」

(お芋の味がする。お芋の味しかしない……。なにか、こう、料理法というよりも、技法が足りていない感じが……。せめてもう少し塩気を……)


 正直、エルゴール邸でいただいたクインプレゼンツのエレアニカ料理のほうが、まだ食べれた。


 しかし、なんとか形にしなければという調理人の精一杯が伝わってくる皿でもあったので、なんだか残しづらい。オーレリアを除く三人は、真顔で黙々と料理を口へ運んでいた。


「こんだけエレアニカ連合を上に置いてるアリアメル連合が、そのお国の料理はまったく学ぶ気起こさなかったってんだから、やはり、エレアニカ連合の料理の難しさは際立ったものがあります。技法もそうですけれど、馴染みがないと、ちょっと分かり辛い」

「あの……味の機微に長けていることが前提の料理というイメージがあります。でもこうなると、本場の料理に興味をそそられますね」

「うそ……。え……これ……嘘……」

「おい、お為ごかしてんだから、マジリアクションは今だきゃやめろ」

「機会がありましたら、ぜひ、エレアニカ連合本場の料理を……」


 立つ瀬ないふうのオーレリアはなんとかそれだけ言って、黙々、そんな昼食の時間が過ぎていったのだった。



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