昨晩・2
「このたびの婚約者候補たちは、
リプカとロコが膝を突き合わせる、少し前のことである。
リプカを一人別室に置き、銘々様々な表情を寄せて、四王子が一部屋に集まり密談を交わしていた。
収集をかけたのは、今まさに議題を上げたクインであった。
「それは低い可能性だが……そうでなかった場合、どのみち終わりなのだ、その線を追う形で今後の行動に気を配りたい――と、私は提案する」
「ンン、それってどういうこと?」
顎に手を添え小首を傾げたアズの問いに、クインは眉間に皺を寄せるように目を細め、髪を梳くように掻きながら語り出した。
「まず、これは憶測でしかない、低い可能性の話だと理解してくれ。そういう符号も見出せる、という話でしかない。――今あのダンゴムシに一番足りていないモノはなんだ? 目標とすべき
「それは――」
「はっきりしているところ……ですね……」
アズとクララが慎重に相槌を打ち、クインの問いにはアズが答えた。
「物事に明確な決定を下す技能だね」
「その通り。未来に、明確で明瞭な筋道を引く力。知っての通り、これが意外と難しい」
これには、ビビも思い当たるものがあるのか、思わず頷きを返していた。
「これが望みだ! と最終的なゴールを決めて決意しても、そこまでの道筋があやふやにしか引けなければ、なんの意味もない。ノープランで突っ込むのは愚かとか、そういった話をしているのではない。無策の特攻は、それはそれで強みがあるし、それでしか得られぬものもあるが……想像力に多くを頼り、視力がぼやけた瞳で現実を見つめて、中途半端どころか曖昧模糊とした道を敷いてしまうと、それが最後、視界は狭まり気力も悪戯に消耗して、手段を自ら制限する愚行に走ったり、祈ることに多くを費やす不毛な消費を尽くすことになりかねないのだ」
「ああ、それは本当に分かるな。科学分野の実験も一緒だ。そこまでの道筋が明確でない、舗装無き道を歩けば、まず目の前のことにしか注目できなくなって視界が狭まる。そして方位磁石が利かないから、無謀な手当たり次第に気付けなくなって、労力を悪戯に消費してしまう。次第に気力が死んで、結果、稼働効率も最底辺まで落ち込む。基本のキである最重要だ。未知の場所を目指すときは必ず、柵なりなんなりの
「あやつはそれができていない。そして、私たちが三十九日の期間であやつを連れて行かねばならぬ場所もそこである。このアリアメル連合で、どのような何を経て何がしたいのかということを明確明瞭に打ち出せれば、逆に、話はそれで終わるのだ。どのような形であれ、そのとき、事態に決着がつく。だが今は、あやつはまだまだの地点にある。『何をしたいのか』しか頭に無いし、目の前のことしか見れぬ。意思を土木代わりに道を引きひたすら突き進む、無策の方法と区別がついとらんレベルだ。なにもかもが中途半端である」
「まあ確かに、現状は、ね」
アズの強調するような相槌に、クララも頷きで追随した。
これにはクインも頷きを見せて肯定したが、しかし続けて厳しい言葉を上げた。
「だが現状は、基盤が築かれただけで、そこはほどんど変わっとらん。もし今のパラメータのまま過去に戻り、もう一度『エルゴール家領域内条例設定議論会議』に臨んでも、結果は変わらぬであろう。目の前のことしか見えず万事、私の掌握下に収まる」
「オーーーイッ!」
「クイン様……ッ!」
他三人から眉間の皺と、呆れの視線や怒りのマークを向けられてもどこふく風で、クインは語り続けた。
「長い時間はかかる。そこで、あの四人方が寄越されたという見方も……できなくは、ない。エレアニカ連合の皇女に、パレミアヴァルカ連合は頂点人の娘、アリアメル連合からは様々な渦中に置かれてきた身であるだろうコバルトスワロー。アルファミーナ連合は……あそこの国のことはよう知らんから分からんが、世界の在り方を学ばせるというわけか……? それか、フランシス何某が寄越した助っ人であるかもな――。まあ誰であれ、あのダンゴムシに、新しい物の見方を授けることだろう。いま決定的に足らんのは物の見方、その多様性。それが無いからクイン当主代理補佐を許してしまったわけだしな」
「コラッ」
「ク・イ・ン・様――!」
「お前な……」
「――憶測の理由はそれだけだ。希望的観測でしかない。しかし――未来を導くという
「……でも、話を聞いてると――」
「なくは、ない、とでも言いましょうか……」
「あり得なくも、なくなくない、という感じだな」
話を終えると、クインは姿勢を楽にして、一同を見渡した。
「他に行動指針となる案があれば上げてくれ、正直欲しい。無いのであれば、これでいこう」
クインはちょっとだけ期待を込めるように一同を見たが――返事を返す者は無かった。
「――よし、では、明日以降は極力、
言い終わると、クインはそこでどうしてか、ムッと表情を一度顰めた。
「……人たらしの力だけは一丁前なところがあるからな、あやつは」
そう言い捨てたクインは、そのときだけ皆からツイと視線を反らして、どこか気まずそうな苛立ち混じりの情を表情に浮かべていた。
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