アリアメルで見た空の情景――・2

 徐行するボートに引かれ、名残惜しくも景色を楽しむ間。


 発着場の岸につき、床に足を降ろした後は、より鮮明に――。


 リプカは、全身で感じ取った様々な感慨を、そしてクライマックスで見たあの情景を、じんわりと鮮明に、思い返していた。


 台の傾斜を滑り、宙を舞ったあのとき見た、感慨の具現であるような光景。


 空を飛ぶ。

 水の。空気の。

 そして、ウェットスーツとライフジャケットの香り。


 それらが自身の高揚と混じり香って、形成された――アリアメルの空の情景。


 ウェットスーツとライフジャケットの香りが情感を想起させるなんて、水上スキーをやったことがない人からしたら、きっと意味不明であるだろう。

 けれど、リプカはきっと、その情動を、感動を、確かに誰かへ、伝えることができる。


 自分だけが持つ感慨を、これだけ鮮明に感じた景色を言葉にして。


 それらをゆっくりと、じんわりと、まだ胸に歓喜を宿したまま……水面の景色を眺めながら、振り返っていた。


「あの――」


 落ち着いた頃合いに、リプカはモーターボートを運転していた係員に、声をかけた。

 なんでしょう、と愛想良く返事してくれた彼女に、リプカは顔一杯に笑んで、それを伝えた。


「水上スキーって、面白いですね」


 ――でしょう、と。

 彼女はリプカと同じ顔一杯の笑みで、勢い込んで、威勢の良い返事を返してくれた。


 水と空の香りの中――。

 身体からだ全てで感じ取った、色鮮やかな思い出に、その表情もまた、褪せぬ鮮やかをもって、記憶されたのだった。



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