第百十二話:今日はエンジョイの日!
「おまえ馬鹿じゃろ」
クインの罵倒に、リプカはしおらしく、しゅんと項垂れて肩を落とす他なかった。
リプカの髪をパサパサとタオルで拭きながら、アズが苦笑に似た声を向けた。
「
「つまり、一応のところは大の大人であるお前がはしゃいでよい祭りでは、なかったわけだ。あのな、勉学の様々を学ぶ、それ以前の問題である“たわけ”を起こされるとな、私たちも反応に困るから、ヤメろ、たわけ者」
「しゅん……」
スンと気落ちするリプカだった。
「でも、本当に不思議だよね。どうして寒くもないのに、水が凍るんだろ……?」
「フン、どうせ分子の動きを抑制するなにがしかの作用で、柔い氷が形成されとるんだろ。“白く濁った氷”というのがあからさまに怪しい。子供が乗って割れないのは、氷の結晶構造が特殊であるからだと予想する」
「ブンシって、なんのこと?」
「構造の最小単位らしい。私も本で読んだだけだから、あまり詳しいことは分からん」
「ふうん……?」
「やはり、お前は科学方面の知識もあるのだな」
温かい飲み物を盆に乗せて運んできたビビの、感心というより、確信を確認するような体裁の声掛けに、クインは険悪な色が滲む鼻息を返した。
「――ああ、おかげさまでな。先の一件以来、特に……」
「ん、む――……」
「あっ、あっ、クイン様もお飲み物、いかがですか?」
「アーー私も飲みたいカモ! ビビちゃん悪いけどお願いしていいっ?」
「フン」
最後にもう一つ鼻息を
「――さて、この三日間で、基礎の基礎たる地盤を築く準備はなんとか整ったという感じだが――これからは無理のない詰め込みでやっていくとしても、身に付けるものとは座学だけでは限界がある、それとは別に、やっておいて損はないことにも手を付け始めることとする」
「やっておいて損はないこと……? ど、どんなことでしょうか……?」
「今回は身構える必要はない。おまえは、そういうことは得意なのだろう?」
目をパチクリさせたリプカを、立ち上がり、腰に手を当て見下ろすようにしながら――クインは笑みを浮かべて、手短に告げた。
「アリアメル連合のスポーツとやらを体験しにいこう。有体に言えば、遊びにいくのだ。――そういったことが、社交界での話のタネになる。人と人とが接するときの窓たる小話の重要性は学んだ通りだ、やるべきことである、シィライトミアのことも一旦忘れて、これからの一時を楽しもうではないか」
――確かにそれは、私の得意分野であるかもしれない。
リプカは「上手くできるかもしれない」という慣れない高揚を覚えながら、この時々に楽しみを見出す度量を見せ、表情を明るくした。
「オラ、分かったらさっさと支度せんか」
「は、ハイ……!」
「アリアメル連合のスポーツかァ! 実は私も全然経験ないんだよねー。でも……特別運動神経が良くないと楽しめないって話だから、もしかしたら私は見てるだけになるかもなー……」
「私も、運動神経は悪くないと自分では思っているが、高いセンスが求められるようなアクションはちょっと、どうだろうか……?」
「フン、軟弱令嬢どもめ。私はそんなもんきっと余裕だから、手本を見せるつもりで一つ楽しんでやろう」
各々様々な意気込み、そしてリプカはといえば、初めていいところを見せれるかもしれないと胸を高鳴らせていた。
そんな胸の高鳴りを声にしたような弾んだ活気で、アズが腕を振り上げながら号令をかけた。
「それじゃあ、遠出になるから、各自、準備ッ! 今日はめいっぱい楽しもーっ!」
世界が一新したような
氷の景観は内陸部限定の現象であるらしいので、海岸線方面は
「レッツゴーッ」
そんなわけで、一行は拠点としていたシィライトミア領域の領域線付近から大きく離れて、コトコト馬車に揺られ、はるばる海岸付近まで足を伸ばしたのだった。
お日和もよく、本日の目的は、ただ遊びに出かけることである。
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