第百九話:もう一人の超常人・1-1

 ――シィライトミア邸に赴き経た、様々を通して。


 正直、明るみになった事情を増やすどころか、混迷させられる謎ばかりが増えたような気がするが……きっとそれは実力不足の視野狭窄故の不明であるのだと、それも奮起の薪にして、リプカは勇んで挑む姿勢をとっていた。


 不明は多い。


 あなたが“生きていてほしい”という思いを最後まで確信なさっていたなら、私は生きる道を模索しましょう、とのたまったシュリフの真意。シュリフの予見した、自身の消滅に関わる未来。


 セラの称賛と、過ぎているようにしか思えぬ自虐のワケ。そして突然の豹変と、計り知れぬ情緒の内実。


 そして――。



『貴方様がセラフィと再びまみえる、次の機会は、貴方様が様々を経てセラフィという人間と対面する、その時になるでしょう』



 ――不明の過ぎる数多の事情。

 シュリフの予見が正しいのであれば、この先で、いったい何が待つというのか――?


(――でもそれは)

(考えても、仕方のないこと……)


 なにせ未来のお話である。


 特別な目など持っていないのだから、気に病んでいても仕方がない。不明へ立ち向かう力への渇望を思い、燻る不安さえも前進のための熱量として奮起した。――とはいえ、そうはいえ。


 展望を望むにあたって気にせざるを得ない予見が、一つだけあった。


 いや、それはリプカにとっての吉報だったのだが――。


「ハァイ、お姉さま。お久しぶりのおまたー」


 宿に帰還して、クイン曰くの地獄のブートキャンプの前に待っていたのは、フランシスからの連絡であった。


 一息をついた、そのタイミングで。

 部屋に置きっぱなしにしていた、ビビから借り受けた例の携帯機が、突然激しく震え始めて――飛び上がり、恐る恐るのおっかなびっくりでそれを手に取ってみれば、なんと、その端末からフランシスの声が響き始めたのだ。


「フ――フランシス……!?」

「イエス、貴方にとって世界一大切な、貴方の妹のフランシスー」


 ワケが分からず動転した声を上げるリプカ。そしてそれと対象の、のんびりとしたフランシスの声が、確かに応答として、液晶端末から聞こえてくる。


 まるで、携帯できる電話機のように。


「こ、これ、どうなっているの……? と、というか、どうして連絡をくれたの?」


 手紙を出したのは本日のことだ。

 それが伝わるまでは、まだ時間がかかるはず――。


 すると、フランシスはまるでクインのように「フン」と鼻息を漏らし、のっぺりとした感情を声にした。


「ビビ・アルメアルゥから、また連絡があったのよ。例の、スタンガンの地雷みたいな欠陥品を介してね」

「ええっ!? ビ、ビビ様が……?」

「アレは倫理より能率を優先する。そうしたほうがいいと思ったんでしょうね、アレがそう考えるくらいには、火急を要する用事であるみたいだけれど……なぁに、あの相談内容? 思わず二度見しちゃったわよ」

「あ、ええと……。――あの、まず、フランシス、今度は大丈夫だったの……?」

「ん? フフ、ええ」


 意地の悪い笑声を上げて、フランシスは頷きを返答した。


「お姉さま、あのボケに伝えてくれる? 【電磁方位指躁】って単語を。――んで腰ぬかしたら、一日もかからず完成させたわ、凡愚が、って言っといて」

「で、でんじ……?」

「ほういしそう。――んで、話を戻すけれど、【妖精的基盤症状】の“治療方法”をお姉さまが探しているって話が来たんだけど……なんでとは聞かないけれど、それに間違いはないのかしら? 意味わからん」


 リプカはハッとして、携帯機に口を近付けて、急いだ声で答えた。


「そ、そうなの。フランシスの力を借りたい――フランシスの力じゃなきゃ駄目なの。あの、フランシス……それは、あなたの力を持ってして――可能なことかしら」


 必死の願いの声に対し。

 フランシスの返答は、すぐに返ってきた。


「んー、――不可能かも」


 確かに、そう返答した。



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