妖精人《ようせいびと》シュリフ・2-3

「フフ。――リプカ様、唐突な質問ではございますが、リプカ様から見てセラフィという婚約者候補は、どのような人柄の人間であるように思われますか?」

「え……――っと」


 本当に唐突な内容であった質問に鼻白みながらも、リプカは顎に手をやりながら、偽りない心内を語った。


「セラ様は……本当に聡明なお方です。それでいて、凪いだ海を思わせる落ち着きを持ち合わせていて……印象がありました。大変頼りになるお方で、もう幾度もあのお方に助けていただきましたが、進んで状況に沈着をもたらしてくださることは、きっと私のためというだけのことではなく、それがあのお方の主義ということなのでしょう。私たちの歳になれば、“大人びた”と言うのには妙が付き纏ってしまうものですが、あのお方こそ……真実の意味で、『大人びた人』ということであるのだろうと、そんなふうに思い、慕っております」

「――なるほど。ありがとうございます」


 多くが語られたその印象にシュリフは頷き、そしてどうしてか微笑みを深くして、窓辺から腰を滑らせて、立ち上がった。


「人は、その人の意外な一面を見たとき、距離が縮まったように思い、その人に特別な親しみを覚えるそうです」


 歩み寄りながら、また唐突なことを語り出し――。

 リプカの前まで来ると、そっと手を差し出した。


「…………?」


 意味を計り兼ねながらも、その優しく差し出されたお誘いの手を取った。

 シュリフはまた色の違う微笑みを見せ、リプカを先導した。


「立場といたしまして、私はセラフィを応援する一人ですので……どうか、このささやかな企てをお許しくださいませ。リプカ様も、きっと退屈しないと思います……」


 どこへ連れて行くのかと思いきや――シュリフは自然な足取りで、人一人は余裕をもって入れそうなクローゼットへ、リプカを導いて。


 それまた自然な動作で両扉を開くと、リプカをクローゼットの中に誘導して。

 パタンと、扉を閉めてしまった。


「え」


 リプカは茫然の声を漏らし、放心したまま突っ立ってしまった。


「え……?」


 放心が解けて、焦りが浮かぶ――その刹那の、絶妙な間であった。


 部屋扉が、外側から叩かれたのは。


(――――あ)


 こんなところではあるが……自分でも意外な冴えを見せ、リプカは直感で、いったいこれからなにが起こるのかを理解した。


「どうぞ」


 シュリフが返事を返すと、はたして。


 聞き覚えのある、規則性のある足音――特に挨拶もなく、セラが部屋へ入ってきた。


 人様の邸宅で、鬼のいないかくれんぼをしているという、意味不明な状況下で。

 リプカがまず真っ先に思ったのは、抱いて然るべき緊迫や焦燥ではなく――『なんだか間男みたいでドキドキする』という、状況のシリアスにそぐわぬ、どうでもよすぎる感慨であった。



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