第九十二話:リプカの選択・1

 ただ……誰を頼るかという問題は、軽々には決められない深刻だった。


 頼る以上、シィライトミア姉妹に纏わる事情を明かさないわけにはいかないから。


 できるなら、重大な部分は自分一人で背負うのが最善であるだろうが……、弱音というよりは確信として、それは不可能であることを痛感している――。


 リプカはビビと話した後、いつの間にか宿に帰っていたティアドラに頼みまた一旦お宿を離れ、再び、シィライトミアの城下町へ出向いた。


 ――【シュリフ】、【妖精的基盤症状】についての詳細を聞いたとき、思わず『私なんかが――』と下向きな弱気を見せてしまったことには、いままでの経験則の負という、辿ってきた道筋の負い目もさることながら、それより他に、己に対する失望の事情もあった。


 自身に不信感を抱かざるを得ない、呆れた間の抜け方。

 直近の愚――。


 城下町の、大通りも見通せる路面脇の小奇麗なベンチ、昨日と同じ場所に腰掛けて、リプカはそこで、道行く人々の様子を見て取った。


 ――そして時計の秒針が一周もしないうちに、両手で顔を覆い、忸怩たる思いを抱いて俯いてしまった。


 そのことは、意識して観測すれば一目瞭然であった。


 確かに、少なくともアリアメル連合シィライトミアの城下町では、大体ではあるが、男女の比率が七対三程度の割合で分かれているのが、なるほど見て取れた。貴族と違い、男装をしているわけでもないから、それは分かりやすく観測できる。


 ……アリアメルの特色を見てとろうと、時間をかけて道行く人々を観察していた昨日の行い。――そこから男女比率の特徴を実像として意識の片隅に留めておけば、社交界の全体像を見た瞬間に、違和感に気付けただろう。


 あらかじめ教授されていたそこに気を留めず、示唆されるまで気付かずいたという間抜けの所業が、我が事ながら信じられなかった。


 認めざるを得ない。

 自分一人では無理だ……。根本戦力が全く足りていない……。


 暗雲を頭上に浮かべながら、リプカは歯を食い縛って思慮に及んだ。


 ビビから聞いた、【妖精的基盤症状】の病状段階、その絶望。――実はこちらに関しては、もうすでに解決の活路を見出していた。それも悩まず、ほとんど秒で回答を導き出した。

 暗澹あんたんの衝撃に穿たれながらも、であれば――それしかないと。


 唯一無二にして絶対の方策を。


 だが、それを踏まえて、暗澹たる苛みの気がかりに囚われていた。



 シュリフの筋書き、その最終着点はどこであるのかという不安。



 彼女との会話の中から感じ取った、彼女シュリフの思想指針。気になっているのは――はたして、シュリフは助かりたいと考えているのか、どうかという要点。


 なにか……どうにも、自身を『病巣』と表現することに、強いて傾向している様子を感じ取っていた――。


 もし彼女が、『根治』の意思を固めているようなことがあれば、セラフィに寄り添うどころの話ではなくなる。


 事は複雑を極めるだろう。


 並の戦力では手は回らない。そして後手後手に回ることあらば……――。


 クイン言うところの、どこかでレールを切り替えるようにして、望まれた路線すじみちへ誘導されてしまえば――もしシュリフが『病巣』として消え去るつもりの場合。


 セラにとっての最悪の未来の実現へ、私は知らず手を貸すことになる。


(…………)


 自分一人では、願う場所に辿り着けないかもしれない。


 けれど共にその道を歩む協力を願えば、彼女ミスティアが抱える事情を余さず明かさなければいけない。


 リプカは頭を抱えて、唸り声を喉奥に押し込めた。


 独力では……やはり、無理だ。

 私の馬鹿は事実である……。


 ならば……いったい、誰に頼ればよいのだろう――?



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