【妖精的基盤症状】・1-3

「――さて、では……それらを踏まえたうえで、もう二つ、聞いてくれ」


 再びリプカから視線を外したビビは、眼下の景色とは別の場所の情景を瞳に映しながら、それを告げた。


「【シュリフ】、【妖精的基盤症状】について調べていたときに引っかかった、ちょっとしたことだ。ちょっとしたことなんだが……事に深く絡むことのように思えてな。【妖精的基盤症状】について、その俗称まで詳しく記述された図書なんだが、それが最近に追加されたもののように思えたんだ。ラベルがあまりに真新しくてな」

「最近――追加された……」


 リプカはぼんやりとした呟きを漏らした。


 まだ全容も聞いていないというのに――またしてもそこに、道筋を誘導するような、例によっての作為を感じた。


「ああ。少し気になって調べてもらったが……判明したのは、よく分からん奇妙だった。その図書は、書架一覧に表題のない、蔵書録漏れの書籍だった。ところがだ、蔵書録を古くまで遡ると、そこには、その書籍の表題がはっきりと記述されていたんだ。つまり――昔誰かがその図書の存在を抹消して、また誰かが、最近その本を書架に追加したことになる。奇妙だろ?」

「…………」


 誰がその図書の存在を抹消し、また誰が、最近その書籍を書架に追加したのか。

 ……考えるまでもないことだった。

 なぜそんなことをしたのか、それもまた、考えるまでもない。


「そして二つ目のことだがな」


 次いでビビが口にしたのは、最悪の行き止まりを明示する事情であった。


 そしてリプカは――どうしてセラがあそこまでの衰弱を見せていたのかを理解した。


 暗がりが降りたような、暗澹あんたんの衝撃が奔る――。



「【妖精的基盤症状】のは確立している。ただし、裏とも言える、電気信号の流動経路変質により目覚めた人格は消失してしまう。だからそれは、“治療”とは呼ばれないんだ。――これは論じられた推測ではあるが、【妖精的基盤症状】は病状を見るに、あるときを境に電気信号の流動経路が確定してしまい、表か裏、どちらかの人格のみが現れるようになってしまうと言われている。そうなったらもう最後、根治方法を受けなければ、隠れてしまった人格は永遠に現れない。事をなんとかしたいなら、急いだほうがいい」



 

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