第七十七話:妖精のお出迎え・1-1
『ようこそ。
やっと逢えましたね。』
◇---------------------------
シィライトミア領域の街並みの特徴は、橋を渡り、その景観を一望しただけで理解できる、造りの特色であった。
前二つの領域は平面の造りであったのに対して、シィライトミア領域の街は、ある程度の立体的高さをもった、入り組んだ造りを見せていた。
その傾斜は急勾配というわけではなく、比較的緩やかであったが、それでも、坂道らしい起伏は道に無い前領域と比べると、その高さを持つ入り組みに水の景色がある街並みは目新しく、独特な趣きがあった。
そして、もう一つの特色。
その水ある入り組みの景観は――幻想的に、霧がかっていた。
先を見通せないほどの濃度ではなく、まるで彩りの一つとして霧がかるような、淡い漂いを見せている。領域の境である大橋を馬車に揺られ歩みながら、リプカは不安や覚悟に情緒を揺らしながらも、一方で、その絵に描いた空想のような景色に魅せられていた。
「――んで、アリアメルのの邸宅はどこぞにあるのだ?」
「ここから遠くはないケド、でもさすがにお馬も疲れてるだろうし、その前に休息が必要だと思う。夜間にいきなり訪ねるのもどうかなってカンジだし」
「リングホースだっけ? 良い馬だな、こいつ」
クインとアズの会話を傍目に、馬足を緩めながら、ティアドラは八人もの人間と決して軽くない客車を、足を止めぬ怒涛の疾走をもって引き切った大馬を労った。
「ここから一番近いお宿に泊まろう。ただ、ここでは私の名前で融通が利くか、ちょっと分からない……」
アズは声を萎めて言うと、恐縮して仰ぐように、ちらりとクララのほうを窺った。
クララは殊更に人情味の微笑みを浮かべて、頷いた。
「私の名を使ってくださいまし。きっとお役に立てると思います」
「ありがとう、クララちゃん」
その柔らかな慮りが窺える声色に、アズは屈託のない、親愛が明るく灯るような笑顔を返した。
――そんな、互いの絆を確かめ合う一場面があったのだが、しかし。
クララの助力の必要は、橋を渡る最中、まだシィライトミア領域の地を踏むその前に、失せて無くなることとなった。
「おっと……」
ティアドラが程々のシリアスを含んだ呟きを漏らした。
リプカも、橋の先へ、射抜くような視線を向けていた。
やがて他の面々も、その影を視界に捉える。
影――シルエットのような黒が、橋の端先にぽつんと一つ、佇んでいる。
ぽうっとその黒を照らすランタンを、胸の位置に下げていた。
「跳ね飛ばすか、停まるか」
「……停まってください」
ティアドラの物騒な窺いに、リプカは静かな声色を返した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます