第七十七話:妖精のお出迎え・1-1


『ようこそ。

 やっと逢えましたね。』


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 シィライトミア領域の街並みの特徴は、橋を渡り、その景観を一望しただけで理解できる、であった。


 前二つの領域は平面の造りであったのに対して、シィライトミア領域の街は、ある程度の立体的高さをもった、入り組んだ造りを見せていた。


 その傾斜は急勾配というわけではなく、比較的緩やかであったが、それでも、坂道らしい起伏は道に無い前領域と比べると、その高さを持つ入り組みに水の景色がある街並みは目新しく、独特な趣きがあった。


 そして、もう一つの特色。

 その水ある入り組みの景観は――幻想的に、霧がかっていた。


 先を見通せないほどの濃度ではなく、まるで彩りの一つとして霧がかるような、淡い漂いを見せている。領域の境である大橋を馬車に揺られ歩みながら、リプカは不安や覚悟に情緒を揺らしながらも、一方で、その絵に描いた空想のような景色に魅せられていた。


「――んで、アリアメルのの邸宅はどこぞにあるのだ?」

「ここから遠くはないケド、でもさすがにお馬も疲れてるだろうし、その前に休息が必要だと思う。夜間にいきなり訪ねるのもどうかなってカンジだし」

「リングホースだっけ? 良い馬だな、こいつ」


 クインとアズの会話を傍目に、馬足を緩めながら、ティアドラは八人もの人間と決して軽くない客車を、足を止めぬ怒涛の疾走をもって引き切った大馬を労った。


「ここから一番近いお宿に泊まろう。ただ、ここでは私の名前で融通が利くか、ちょっと分からない……」


 アズは声を萎めて言うと、恐縮して仰ぐように、ちらりとクララのほうを窺った。

 クララは殊更に人情味の微笑みを浮かべて、頷いた。


「私の名を使ってくださいまし。きっとお役に立てると思います」

「ありがとう、クララちゃん」


 その柔らかな慮りが窺える声色に、アズは屈託のない、親愛が明るく灯るような笑顔を返した。


 ――そんな、互いの絆を確かめ合う一場面があったのだが、しかし。


 クララの助力の必要は、橋を渡る最中、まだシィライトミア領域の地を踏むその前に、失せて無くなることとなった。


「おっと……」


 ティアドラが程々のシリアスを含んだ呟きを漏らした。

 リプカも、橋の先へ、射抜くような視線を向けていた。


 やがて他の面々も、その影を視界に捉える。


 影――シルエットのような黒が、橋の端先にぽつんと一つ、佇んでいる。

 ぽうっとその黒を照らすランタンを、胸の位置に下げていた。


「跳ね飛ばすか、停まるか」

「……停まってください」


 ティアドラの物騒な窺いに、リプカは静かな声色を返した。


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