夕暮れ時のお別れと未来水準の奇妙・2

 ――少し時間を戻して、日が紅く染まる前、リプカとビビがアズを見送っていた、そのとき。


 夕焼けの予兆を見せる日に照らされながら、三人を見下ろす視線があった。


「――ハ」


 ティアドラは本館から驚異的な視力で三人――ではなく、その先に停車している、技術の粋が詰まった黒い車両を見つめながら、乾いた笑いを上げた。


 自動車が遠くに消えるまでそれを見つめ続けてから、様々な感情が窺えるため息を吐き出して、再び、順序はあれど宛てもない足取りで、館をうろつき始めた。





 三人を見下ろす視線は一つではなかった。


 ティアドラと違って、道順を持って屋敷を歩いていたクインは、遠くにぽつんと見える黒い車両を見ると、僅かに顔を顰めて――。


「フン」


 歯切りを立てて顔を反らした。


 それ以上自動車に目を留めることもなく、そのままさっさかと歩き始めたが――王者然としていたその視線は下にさがり、表情も薄雲がかかったように暗くなった。


「つーかアイツ、なーにを他の女と仲良くしているのだ。私が諦めたとでも思ったか、諦めんぞオイ」


 ぶつぶつと呟き、自身で己の気を反らしながらも――その瞳にはどうしようもなく、過去の記憶の断片が時折、過るように映り込んでいた。


 俯きながら。


 唇をきゅっと結んで、クインは歩き続けた――。


 

 

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