退屈な議論会・1-5

(…………あ)


 リプカは唐突に、フランシスの思惑、その意図を悟った。


 フランシスの性格を良く知るリプカだからこそ辿り着けた、答え。


 フランシスは、何事に対しても速攻を好む。それをよく知っていた。

 そして、この場にはいない、招かれなかった王子。


 クララ・ルミナレイ・セラフィア。


 思惑があり、除外されていたとするのなら。彼女が、意図をもって招かれていなかったとするのなら。

 この晩餐会の意味は――。


(クララ様が、他の五人方と立場が異なっている点。それは――あの人が、最初から明確な好意をもって、私に告白をくれたということ……)


 速攻。


(私とクララ様が、より迅速に、円滑に、婚約を結ぶための配慮……?)

(客人へ高圧的な態度を取ったのは――お家に傷を付けてでも他の五人方の意欲を削いで、どうしても政治の絡むこの縁談で、少しでもクララ様の意思が通りやすくするため……?)


 除外。

 排斥。


(私の、ために……?)


 晩餐会の前、あのとき見せた、フランシスの表情。

 姉の未来を思い、我儘を飲み下した暴君。

 二人の関係性。


(…………)


 速攻を実現するための無理。布石に価値を見出すやり方。

 フランシスの性格を考えても、十分ありそうな推察だと、リプカは考えた。


「どしたの?」


 ぼうっと考え込んでいた、上の空な放心顔を覗き込んだアズにハッとして、リプカは意識を戻した。


「な、なんでも……!」

「そう? あ、これすごく美味しいね! なんていう料理かな?」

「ええと、そちらは……」


 もしその推察が合っていれば、いや合っていなくとも、失礼が過ぎて、とてもじゃないが言い出せることではなかった。


 リプカはたどたどしい言葉で料理のあれこれを説明しながら、自身の推察を思考の隅で再び思った。


 リプカの話を聞きながらふんふんと頷くアズには、その邪険の含まれる推し量りを思うと、申し訳ない気持ちになったけれど――一方でその推察には、リプカの心を浮き足立たせる、意識の隅で芽生えた幸いの感慨があることも、また事実だった。


「リプカちゃん?」

「は、はい。なんでしょう?」

「イヤなんか、嬉しそうな表情を浮かべてたからさ。フフ、なんか良いことあった?」

「エェ!? …………。……性格が悪くて、ごめんなさい……」

「んえ!? 急にどったの!?」







 ――結局のところ、侃々諤々と論じられた議論で挙げられた推察は全て、外れていた。


 唯一ビビの、『空は青い』と云うようと評した、議題定義と表現すべき明白を除けば。


 惜しいところで言えば、リプカの推察が一番真実に近いところにあったが、しかしそれも、フランシスの思惑の本質からは明後日の方向に外れている、空振りだった。



 五人の推察は。

 全てが正解で、全てが不正解だった。



 五人――ミスティアを含めれば六人は結局、無駄な時間を過ごした。


 晩餐会で企てられた、フランシスの策略。

 その企みの理由である、フランシスの本心が明らかになるのは――この婚約騒動が幕を閉じようとする、最後の、最後だった。



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