第12話
そして翌日。
いつもよりちょっと早めに登校した沙希は、ドキドキしながら石田が来るのを待った。
だが心配はいらなかった。
「よう」
果たして石田は学校に登校してきた。
以前と変わらず、くったくのない笑顔を振りまいて。
「大丈夫か?」
「お帰り!」。
クラス中から、歓声が飛んだ。
皆、笑顔で石田を迎えた。
だが沙希は昨日のやり取りがあったので、内心はオドオドしていた。
上手い接し方が分からず、ぎこちなさがあった。
放課後。
ホームルームが終わると帰る者、部活に行く者に分かれた。
そんな中、石田はただ1人教室に残っていた。
沙希は石田の机の上を覗いた。
机の上には、何十冊もの本が積まれていた。
それは陸上のトレーニング法や栄養学などの本だった。
気になった沙希は声をかけてみた。
「石田君、これって……」
石田は照れくさそうに笑った。
「いや、実は陸上のコーチを目指そうと思ってさ」
「コーチ?」
「ああ。結局どこまでいっても俺って、ただの陸上バカだからさ。選手として駄目になっても、コーチとしてならやれるかなって。家に帰ると集中出来ないからさ。学校でやることにしたんだ。部活が終わるまではいいよって、先生からOKはもらってる」
「そうなんだ。すごくいいと思うよ!」
沙希は手を叩いて、喜んだ。
「私、応援する」
「ありがとう田岡。2人のおかげだよ。2人に勇気付けられたから、俺……」
石田は後の言葉が続かなかった。
だが沙希には、石田の思いは全部分かった。
「頑張ってね、石田君」
「ああ」
石田はまた本に目を戻した。
沙希は廊下に出た。
すると刹那がいた。
刹那は2人の会話を聞いていた。
「あ、刹那君」と沙希が言った。
「石田。どうやら吹っ切れたようだな」
「うん。よかった。ほっとしたよ」
「ああ。そうだな」
「刹那君のおかげだよ」
そう言われて悪い気はしなかった。
自分は父親とは違う。
金や報酬、名声のために時の探偵とはならない。
刹那は決意した。
自分は新しい時の探偵となる。
正義を信じる探偵となる。
それが亡き母親との約束になる。
2人は帰ろうと下駄箱に行った。
下駄箱には、クラスメイトの恭子が顔を強張らせて立っていた。
「どうしたの?」と沙希が訊いた。
「……今、下駄箱開けたらこんな物が入ってたの」
恭子の声と手は震えていた。
恭子は持っていたA5サイズ程の紙を2人に見せた。
紙には雑誌の切り抜きで、大きさと色の違うカタカナの文字がコラージュされていた。
「ガッコウヲヤメロ。サモナイト、ワザワイガオトズレル」
脅迫文だった。
「刹那君!」と沙希が言った。
刹那がうなずいた。
時の探偵の出番だった。
時の探偵 刹那 空木トウマ @TOMA_U
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