第7話

翌日。

 放課後。

 刹那と沙希はBYタクシーの営業所に向かっていた。

 その営業所は駅前にあった。

 駅へと向かう道は、自分達と同じような学校帰りの制服の学生が目立った。

 刹那と沙希は、石田をひき逃げしたBYタクシーについて調べた。

 ネット検索で、簡単に調べはついた。

 BYタクシーは都内を中心に走っている、中堅のタクシー会社だった。

 営業所に着いた。 

 白い外観の2階建ての建物だった。

 割と年数が経っていた。壁の汚れが目立つ。

『BYタクシー』と白地に黒で大きな看板がかけられていた。

 営業所の前には、4台のタクシーが停まっていた。

 刹那と沙希は、ドアを開けて中に入った。

 営業所の中は全体的にゴチャゴチャしていた。

 4つの机が合わさった島が、3つあった。

 机の上にはパソコンや電話が置かれていた。

 後ろの棚には沢山の書類が入っていた。

 ボードには、今月の勤務表が貼ってあった。

 入るとすぐスーツを着た男女がいた。

 2人は振り返ると、刹那達をじろっと見た。

 男性は24、5歳といったところだった。身長は170cmはあった。髪は短くカットされ、清潔感があった。

 女性は男性よりも少し年齢が上に見えた。そして背も少し高かった。

 黒髪は肩より先までかかり、目は大きく美人だった。

 服の上からでも腰のくびれがはっきりと分かりスタイルはよかった。

 2人の前にはもう1人、青地のスーツを着た太目の中年の男性がいた。

「なんだ?お前達は」

 振り返った女性が言った。

 露骨に怪訝そうな顔で、刹那達を見た。

「あなたはBYタクシーの方ですか?」

「私が先に訊いた。質問に答えろ」

 いつもは大人しい刹那だったが、傲慢な相手には同じ態度をとった。

「違うなら答える義務はないです」

「なんだと!?」

 女性は刹那をにらみつけた。

「お前……」

「まーまー警部」と隣の男性が言った。

「一般市民に対しては優しく接しないと、警察のイメージが悪くなっちゃいますよ」

 警部?

 ということはこの人は警官なのか?

「こちらは警視庁の井上警部です」

 沙希はこんなキレイな人が警察官だと言うことに驚いた。

 モデルといっても通用する程のルックスだった。

「警視庁の井上だ」

 井上は胸を張った。

「こいつはウチの新入りだ。名前は……まあいいか」

「いやいや。ちゃんと紹介してくださいよ」

「元セールスマン。以上」

「ま、まあそうですけどね。間違ってないですけどね。元々商社の営業だったんですが、わけあって警察に転職しまして」

 それでこんなに腰が低いのか。

「そのナヨナヨした女みたいなところが、だいっ嫌いなんだよ。私は」

「いやー、ホント井上警部はメンタル傷つけるのが得意ですねえ」

 2人はまるで漫才コンビのようだった。

「これで分かったろ。さ、こっちの質問に答えてもらおうか?」

 険悪なムードになった刹那に変わって、沙希が答えた。

「あの、私達の友達が先週ひき逃げ事故にあったんです。その犯人の車がこのYBタクシーだったようなので、話を訊きにきたんです」

「ほう?」

 井上は意味ありげにうなずいた。

 警察もひき逃げ犯を追って、ここに辿り着いたというわけか。

「気持ちはわかる。だがそれは警察の仕事だ」

 そして井上は刹那をじっと見た。

「とにかく私達の邪魔をするんじゃないぞ。邪魔したら公務執行妨害で逮捕してやるからな」

「あははー。じゃあ、まあ、そういうことで」

 言いたいことを言って、井上達は去っていった。

 後には井上達が話しを訊いていた、男性が残った。

 この人がBYタクシーの社員だろう。

 刹那達は気を取り直して、この社員に話を聞いてみることにした。

 申し訳なさそうな顔をして、社員が言った。

「警察の方に話したので、同じような話しかできませんが……」

「聞きたいことは1点だけです」

 そう。

 刹那は既に犯行の現場を見ている。

 証拠もある。

 回りくどい駆け引きや、誘導尋問などは必要なかった。

 必要な情報を得るためには、ストレートに訊くだけでよかった。

「このナンバーの車の運転手のことを教えてください」

 刹那はメモを見せた。

 これはスマホで撮った写真から、転記したものだった。

 さすがに車や本人の顔写真を出すのは不自然なので、やめておいた。

「君、どうしてそのナンバーのことを……!」

 社員は驚いた。

「警察でもナンバーは分からなかったのに」

「事故にあった友達が思い出したんですよ」

 刹那はさらりと嘘をついた。

「そうですか……」

 社員がため息をついた。

「それは磯貝の車です」

 磯貝。

 それがひき逃げ犯の名前か。

「その磯貝さんはどこに?」

 ボードには、個人の名前が書かれたプレートが貼られていた。

 磯貝のプレートもあったが、勤務表には貼られていなかった。

「それが……」

「彼は今日休んでいます。というか連絡が取れないのです」

「連絡が取れない?」

「ええ。ですので私どもも、困っているんですよ」

「そうですか……」

 刹那は家の住所まで知りたかった。

 だがさすがに個人情報であり、警察ではない刹那たちには家の住所までは教えてくれなかった。

「ありがとうございました」

 刹那はそれ以上、しつこく聞かなかった。

 あっさりと引き下がった。

 2人はBYタクシーの営業所を出た。

「いいの?刹那君。ここで情報止まっちゃったけど」

 沙希が不安そうに言った。

 だが刹那は自信ありげだった。

「さっきの気の強そうな井上警部が聞いていただろうからね」

「どういうこと?」

「ここで過去に遡れば、簡単に磯貝の住所が分かる」

「あ。そっか!」

「ちょっと行ってくる」

 井上達が来たのは10分~15分くらい前だろう。

 それくらいに辺りをつけて過去に戻った。

 刹那は再度、営業所に入った。

 さっきの太目の社員が、社員名簿のファイルを取り出しているところだった。

 新入りの刑事が、手帳にその住所を書き写している。

 刹那はその住所をスマホで写した。

「よし」

 刹那は現代に戻った。

 陽は沈もうとしていた。

「磯貝の家の住所が分かったよ」と刹那は言った。

「さすが、刹那君」

「今日はもう遅い。磯貝の家には明日行くことにしよう」

「そうね」

「それじゃあ、また明日」

「うん」

 2人はそれぞれの家に帰っていった。



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