9 pancake

antagonist:


 俺は有楽町駅を降りて、あるレストランへと入っていく。そして、頼んでいたものを、と店員さんに告げる。向かった先のそのカウンターには、陽子がいる。彼女は訊ねてくる。

陽子「一体、どうやって……」

 俺はその隣に腰がける。

栗原「思い出しただけさ。昔、ここのパンケーキが食いたいって言って連れてこられた時のことを」 

 そうして俺は彼女の皿を見つめた。

栗原「今日はパンケーキじゃないんだな」

 陽子はため息をつく。

陽子「毎日食べてたら、流石に飽きるでしょ」

 俺は笑う。

栗原「そんなに足繁く通っていたとはな」

 彼女は不機嫌そうに顔を背けながらも、答える。

陽子「ここなら、絶対に孤独になれる。みんなわたしのことなんか、気にしない」

栗原「そうだな、マイクロファイナンスを仕切るような、とんでもない奴でもな」

 陽子は俺を睨みつける。

陽子「すぐに出て行って。あなたと話すべきことはない」

 俺は肩をすくめる。

栗原「未冷のことなら、どうする?」

 陽子は訊ねてきた。

陽子「取引ってこと?」

 俺は頷く。

栗原「お前らが一体どんな世界を見てきたのか、ようやく理解できた。俺たちはずっと、連合国軍最高司令官総司令部GHQの、わるい先生たちの手のひらの上だったってことを」

陽子「いまさら……」

栗原「そしてお前が借金漬けにして結局殺した両親すらも、連合国軍最高司令官総司令部GHQのせいで悪い教え子になるしかなかったことも」

 陽子の目が見開かれる。そして、自嘲するように微笑み、

陽子「やっと、私が両親たちを毛嫌いしてたかわかってくれたようで」

 俺は頷く。

栗原「ずっと疑問だった。どうやってお前は今の力を手に入れ、両親を破滅に追いやったのか。あの時すでに、先生である未冷と関わっていたからだ。お前にとっての未冷は、救いの手だった」

 彼女は訊ねてくる。

陽子「だったらどうするの?私を捕まえて、未冷を捕まえて。それで連合国軍最高司令官総司令部GHQと、先生の手先であるあなたは満足する?」

栗原「いいや、俺たちの望みはそんなものじゃない」

陽子「じゃあ何を?」

 俺は答える。

栗原「やり直しを」

 その時、店員さんが現れ、コーヒーと共にあるものを置く。それを見て、陽子はつぶやく。

陽子「パンケーキ……」

 俺は笑う。

栗原「食わず嫌いも良くないって思ってな。これも、勉強だ」

 そしてフォークを入れ、頬張る。そして笑った。

栗原「なかなかいいな。どうだ?先生」

 そう言って、もうひとつのフォークを差し出す。そして彼女もパンケーキにフォークを入れ、頬張る。そしてさらにフォークを入れ、頬張る。そして彼女は言った。

陽子「なんでだろ、おいしい……」

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