19 plane

scripter:


 私と、衛理と、真依と、そして彼。四人で、荷物を抱えてとにかく広い保安検査へと進んでいく。

 彼と並んで、私は言った。

未冷先生「あの香水、使ってくれてありがとう」

主人公「いい香りだったからね」

 私は彼に歩きながら、お姉ちゃんの言葉を思い出しながら、言った。

未冷先生「私の先生が、お姉ちゃんが言ってたの。ほんとに好きな人に出会えたら、自分の好きな香水をつけてあげてって。同じになれるからって」

 彼に肩を寄せる。

未冷先生「いますごく、幸せ……」

 彼も照れてくれると思った。けれど彼は、どこか達観したように微笑む。

主人公「そうだね……」

 会話が途切れ、不安になった私は言った。

未冷先生「ねえ、これからどこにいくの?」

 彼は答える。

主人公「まずは、アメリカかな」

 私は続けた。

未冷先生「でも、このチケットにはアメリカなんて……」

主人公「そうだね」

 そう言って、彼はiPhoneを出した。でも、それだけだった。私は違和感を感じて、立ち止まる。

未冷先生「ねえ、私たちのぶんは?」

 彼は歩いていく。

主人公「君たちのぶんは、必要ない」

 立ち止まった私は全身から血の気が引いた。

未冷先生「そんな……」

 彼は振り返ってきて、微笑む。衛理は彼に言った。

衛理「あなた自身の手で、私たちが粛清されるってこと?」

主人公「逆だよ衛理。粛清されるのは、僕の方なんだ」

衛理「どうして」

主人公「この国の警察に、二度も不当な筋書きで銃を使わせた」

衛理「二度って、さっきのと、それといつ……」

 衛理の質問に答えることもなく、彼は言う。

主人公「君たちは、この国に必要だ。栗原さんや黒沢さんが、君たちを待っている。司法取引のうえで、君たちの物語は続く」

 私たちが振り返ると、そこには先ほどまでいっしょにいた彼らが待っている。

 真依が訊ねた。

真依先輩「ずっと騙していたの」

主人公「ごめんね、真依先輩」

 私は言った。

未冷先生「私たちには、世界を巡ってこの暗号を解けないようにする任務が」

主人公「それは先生たちのものじゃない」

 私は気がついた。

 あの香水の香りも、すべては。

未冷先生「まさか……」

 私と同じ香りを持つ彼は、頷いた。

主人公「僕のものだ。二度も不当に警察に銃を抜かせ、この国の搾取を終わらせたのは、僕自身だった」

 彼は名乗った。

主人公「僕が、脚本家スクリプターだ」

 私たちは呆然と立ち尽くす。彼との思い出が、蘇ってくる。そして私は言った。

未冷先生「この脚本スクリプトは、やり直しはきかないの」

 彼は頷く。

主人公「世界を救った。この結果を、次は得られない」

 私はわからないまま、訊ねる。

未冷先生「これが運命なの?」

主人公「僕の仕組んだ、ね」

 そう言ったかと思うと、行かなきゃ。と彼は立ち去っていく。リュックサックひとつで。

 私は遠くに進んでいく彼に、言った。

未冷先生「私たちは星を繋ぐ旅に出るんじゃなかったの」

 彼は笑って振り返ってくる。

主人公「そうさ。世界はいまだに、暴力が強すぎて、誰もが凍りついている。なのにその手段を加速させるお金を、監視を、僕たちは作ってしまった。だから、先生たちはここで、僕は世界で、人々を、星を繋ぐ」

 私は言った。

未冷先生「ずっと星のために闘ってきたの」

 彼は答える。とても真剣な眼差しで。

主人公「僕はきっと、先生のためだけに走り続けてきた」

未冷先生「……なら、私と一緒にいてよ」

 きづけば、涙が溢れていた。そんな私を見つめながら彼は微笑み、答える。

主人公「僕たちは一緒に過ごした。あの浦安で。忘れちゃったの」

 私は俯いてしまう。数々の、優しい思い出が蘇ってくる。彼は言った。

主人公「君と離ればなれなんて耐えられない」

 私は顔を上げた。けれど彼の顔は、すでに決心がついていたようだった。

主人公「でも、進まなきゃ」

 そして、立ち去りながら、言った。まって、いかないで。そう言っても、彼は止まらない。彼は言った。

主人公「ここからが、搾取なき世界。僕が、暗号通貨で完成させる未来。これが、僕の脚本スクリプト

 私は叫んだ。

未冷先生「嫌だ!」

 そして立ち去ろうとする彼に、私たちは走り出す。けれど、私は陽子に抱きとめられる。そして彼女は首を振った。真依も、衛理も、財前さんや栗原さんに抑えられる。離して、私がそう言っても、陽子は応えてはくれなかった。

 そうして彼はただひとり、そのターミナルの向こう側へと消え去っていった。

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