18 terminal

protagonist: architect - sentinel:


 羽田空港国際線ターミナルのタクシー乗り場に、僕たちのレクサスISは到着する。そこにはすでに栗原さんが待っている。そこで衛理が言った。

衛理「捕まる気?」

 僕は答える。

主人公「いいや、彼と僕が、協定として対等な契約を交わした。その代わりに、さっきの力を一瞬だけ利用できたんだ。僕と彼らが協力してなきゃ、ここまで壮大なことができるわけがないでしょ?」

 衛理はしばらく考えて、告げた。

衛理「信じるよ……」

 その後部座席の扉を優しく開いてくれた。僕ら全員が降りていく時、彼は笑った。

栗原「お手柄だよ」

 僕は答える。

主人公「彼女たちがはじめに銃で戦ってくれたおかげです。だから連中に銃の数の勝負だと思い込ませられた」

 栗原さんは肩をすくめる。

栗原「それで六本木に連れて行った連中、本当に捕まえるだけでいいのか?」

主人公「法のもとで裁かれるのなら。それでももう一度悪に向かうなら、先生として潮時です」

 栗原さんは皮肉げに笑った。

栗原「お前の前では全てが駒なんだな」

 僕は肩をすくめる。栗原さんはやがて言った。

栗原「さあ、世界の名だたる要人警護ですら無人にできなかった、羽田空港国際線ターミナルへようこそ」

 僕たちがその中に入ると、驚くほどに警察の人たちしかいなかった。衛理がつぶやく。

衛理「わたしたちのために、ここまで」

栗原「これで済めば安いものさ。お前たちは今までこの国が受け持ってきた全ての犯罪者を狩り尽くすために準備されてきた予算の数十分の一で、ここを完全に貸し切っているんだからな。お前らは飛行機ですらなく、空港そのものをハイジャックしちまったってわけだ。もちろん、俺たちの協定の中で。君のご両親も、娘の活躍に喜んでくれているさ」

 衛理は驚いて栗原さんを見上げる。

衛理「パパとママを知ってるの」

 彼は答える。

栗原「知り合いも何も、俺の最高の上司だった人たちさ」


 貸切の羽田空港の国際線、その上層階にある周囲を一望できる飲食店で、僕らはちゃんとした朝ごはんを食べていた。衛理と真依先輩は本当にリラックスしていた。けれど未冷先生だけは食べ進んでいなかった。僕は訊ねる。

主人公「お腹、空いてなかったかな」

 彼女は顔を上げる。そして笑いかけてくる。

未冷先生「ご、ごめん。なんだかここが、夢なのか、現実なのかわからないことだらけで」

 僕は肩をすくめた。

主人公「そしたら彼女も、きっと夢に見えてしまうかもな」

 そう言った時、僕の肩に誰かが手を置く。それは、陽子だった。

陽子「まったく、これもあなたの計画通りなの、ひとたらし」

主人公「嫌だったかな」

陽子「そうでもないかな」

 未冷先生は驚いて立ち上がり、そして彼女へと歩いていく。そこには、財前さんも、杉原さんも、山崎さんもいた。

未冷先生「陽子、みんな、捕まったんじゃないの」

 陽子は肩をすくめる。

陽子「そいつが全部手を回してくれていて、司法取引した。安心して。私たちは確かにここにいる」

 そして陽子は未冷先生を抱きしめた。未冷先生は震えている。

未冷先生「私を殺したりしない?そういう筋書きじゃない?」

陽子「するわけないじゃない、私たちの、お姫様」

 未冷先生はすがるように陽子に抱きついた。そして言った。

未冷先生「ごめんなさい。私の脚本スクリプトに、あなたを巻き込んでしまって」

陽子「いいの。全てはこうして、ただ一緒になることだったんだから」

 二人はしばらく、離れないままだった。僕らはそれを、穏やかに見つめる。


 みんなが楽しげに会話しているのを、僕はベンチの端に座って遠くから見つめる。そして、本日二度目のコーヒーを飲んでいた。そのベンチの端には、ナカモトがいる。

ナカモト「まったく、君がとんでもないことを言い出すもんだから、一時はどうなるかと思ったよ」

主人公「ありがとうございます、先輩。先輩がスパイたちをうまくおびきだしてしてくれたおかげで、この国からは完全に犯罪組織を排除するに至った」

ナカモト「礼には及ばんさ。すべて、彼女への手向けになる」

 彼の服装を、その喪服である完全な黒のスーツを見つめながら言った。

主人公「これから、かつての脚本家スクリプターの墓へ?」

ナカモト「ああ。君には少し意外だったかな?」

 僕は首を振った。

主人公「そうでもないですよ。きっと、向こう側の彼女さんも喜んでくれます」

 今度は彼が驚く番だった。

ナカモト「君は宗教の類を信じない側だと思ってた」

 僕は、この建物の建築物全てを見渡しながら、言った。

主人公「もしそれに対する答が見いだせれば、それは人間の理性の究極的な勝利となるだろう。なぜならそのとき、神の心をわれわれは知るのだから」

 彼は笑った。

ナカモト「なるほど、ホーキングの本か。そこから神を感じ取るのは、確かに君らしいな」

 その時、予定されていた人が訪れた。

黒沢「だがその法則の上で世界をつくりかえるのもまた、ひとつの神のありかたさ。それを私は、人類と呼びたい」

 僕は相手へと振り返り、微笑む。

主人公「黒沢さん」

 彼女は僕とナカモトの間に腰がける。

黒沢「救世主となった君が宣言した通り、全ては達成された。だが、内部分裂者であることを詐称してきた教え子の君にとって、ここからが本番だ」

 僕は頷いた。

主人公「ええ。これで世界は、完璧に至る」

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