16 waiting
scripter:
彼はまたひとり、またバルコニーでぼんやりと空を見上げている。
全ての装備を整えている彼に、まだ準備できていない私は声をかける。
未冷先生「また人工衛星を探してるの?
彼は振り返ってきて笑う。
主人公「気づかれちゃったか。不思議?」
未冷先生「前ほどじゃないかな。不思議くんのことが、やっといろいろわかってきたから」
そういって、並んでふたりでバルコニーに立つ。すると、私の好きな香りがした。
未冷先生「その香水。いまなら君がどこにいようと、分かりそうな気がする」
彼は朗らかに笑う。
主人公「それはスパイとしてはまずいな」
未冷先生「いいの、わかるのは、私だけなんだから」
そして彼の腕を抱きしめる。そして私も空を見上げる。
未冷先生「気づきもしなかった。こんなにも空が、広かったなんて」
主人公「でしょ。自分に関係しないものは、どんどん見えなくなる。情報を置いていく。それが小さい頃の学習においては必要なんだってさ」
私は自嘲気味に笑う。
未冷先生「そうね。私は大人になっていくほど、いろんなものを置いていって、見えなくなっていった気がする。早熟なのも、いいことばかりじゃない」
首を傾げる不思議くんに、私は言った。
未冷先生「
そう言って沈黙する私に、彼は言った。
主人公「そういえば、恋は盲目、なんていうよね」
私は顔が熱くなった。
未冷先生「な、なんでそんなことを……」
彼は笑う。
主人公「ごめんごめん」
そうして、彼は微笑んでくる。
主人公「見えなくなって不安になるなら、拾いに戻ればいい」
呆然とする私に、彼は微笑んだ。
主人公「そうやって人は、学び直していける。どんな過去が、あったとしても」
私は微笑む。
未冷先生「含蓄深いね、星を繋いだ
私たちは、各々の部屋で服装を整えていく。私にとっては久々に使う、スーツだ。そして、髪の毛をとかし、肌の準備を整え、化粧をしていく。
そして最後に、香水を自らの首筋にかける。
香水で仕上げをしない女に、未来はないんだってさ。
ガブリエル・シャネルの言葉を引用するお姉ちゃんのような先生を、
お姉ちゃん「そのままでいいって考えは、自分を過大評価していて図々しいんだって。いいじゃんね?別に〜」
香水をつかっていい香りになったお姉ちゃん先生に、私は訊ねた。
未冷先生「じゃあなんで、先生は香水をつかうの?」
お姉ちゃん先生は不敵に微笑んだものだ。
お姉ちゃん「みんなに好きになってほしいから」
そうして、行員なんかよりたぶんアイドルのほうが向いてたお姉ちゃんはわたしに香水をくれた。彼女は言った。
お姉ちゃん「ほんとに好きな人に出会えたら、自分の好きな香水をつけてあげてね。同じになれるから。すごく、幸せだぞ?」
私は、かつて彼に使った香水の量が少しだけ減ってるのをみて笑う。
未冷先生「そうだね、お姉ちゃん……」
それら全てが終わり、ジャケットを着て私は地下の武器庫にたどり着く。そこで、コンシェルジュの明穂さんが待っていた。
明穂「相変わらず、とてもお似合いです」
未冷先生「ありがとう。私の装備を」
彼女は頷き、私に装備をひとつ、差し出した。そして、マガジンをいくつも。
明穂「M4カービン。あなたのお好みに合わせて銃身は短く設定済みです。車から乗り出して戦闘を行なっても問題はないかと」
私はそのアサルトライフルを手に取り、各機構の動作チェックを行なっていく。それに満足し、手渡されたガンケースの中にしまっていく。さらに彼女は、サイドアームを差し出してくれた。
明穂「コルトガバメント。あなたのオーダーに合わせたもののままです」
私はその銃を受け取り、そして状態を確認する。そしてマガジンをさし、それをホルスターの中にしまっていった。そうしてマガジンもすべてホルスターのオプション部分に入れた時、彼女は訊ねてきた。
明穂「また、会えますよね?」
私は寂しげに笑った。
未冷先生「どうかな。すぐ、帰れるようになりたいな。あなたのもとに」
彼女は微笑んだ。
明穂「お待ちしてますよ」
observer:
ホテルのエントランスのベンチで、私と彼は座っている。彼は言った。
主人公「似合っているね、真依先輩」
私は肩をすくめる。
真依先輩「こんなスーツを私たちが着るには、早すぎる。そう栗原さんからも言われたでしょ?」
彼は首を振った。
主人公「時と場合によるよ。周りがよく見えている大人な君には合ってると思うけど」
真依先輩「本当に大人なのは、あなたのほうだよ」
彼は皮肉げに笑う。
主人公「仕方ないよ。一つ上だし」
ふと、彼は訊ねてくる。
真依先輩「そういえばどうして、顔見知りでもなかった僕を推薦なんかしたの?僕が
真依先輩「まさか。図書館で暗号通貨の話題を振った時反応が良かったから、あなたを呼んだだけ。レクチャーをしたとき、あなたは犯罪手法についてはほぼ知らない状態だったからわかるはずもない」
主人公「じゃあどうして」
真依先輩「未冷とふたりで歩いてたのを、何度もみたことがあったからだった」
彼はやがて訊ねてくる。
主人公「たったそれだけで?先輩」
真依先輩「十分でしょ?彼女とあなたが楽しそうに話している姿がみれたなら」
彼はそういうものなのか、と言っている。だから私は付け加えた。
真依先輩「後輩、君なら、未冷を守るために戦える。あの時の直感は、今も間違いじゃなかったって確信してる」
やがて私は俯いていた。
真依先輩「私と違って、自分のために戦うことなんかないって思って……」
主人公「いいや。僕も、自分のために戦うことを選んだんだよ?先輩」
驚いて彼を見つめる。彼は朗らかに笑う。
主人公「僕がはじめた暗号通貨のすべてに、決着をつけるために。今は、僕の思い描く、みんなが楽しく暮らすという現実をつくるのために」
私は呆然としながら言った。
真依先輩「それって、自分のためなの」
主人公「当然だよ。みんなが楽しそうだと、自分も楽しくなれるでしょ?」
それは、そうだけど。そういう私に彼は言った。
主人公「僕と先生が話しているのをみて、先輩が僕を選んでくれたのだって……そうだったんじゃないの?」
そういう彼が、あまりにも眩しくて。私はそそくさとその場を後にする。
主人公「どうしたの」
真依先輩「忘れ物」
彼の見えない場所にたどり着いて、熱くなった頬に手を触れる。
真依先輩「人を好きになるって、こういうことなの……」
executer:
太陽のまだでていない茜色の空の中。ホテルの前につけたレクサスISの中で、私と彼は未冷と真依を待っている。二人揃って、すでにスーツを着ていた。彼はふと言った。
主人公「真依先輩も色々考えるところがあったらしい。ビジネスマンになりきるためとはいえ、栗原さんから指摘をくらったこの服装を再び着ることになるってのは」
私は笑う。
衛理「黒沢さんに乗せられて、私も真依も気合を入れて。あの時はほんとにひどかったよね」
彼も笑う。
主人公「似合っているのにね。その場にそぐわないという一点だけでバレてしまった。でも今回はそんなことはないかな。僕ら並みに羽振りがいい人なんて、いくらでもいるから」
衛理「すべての取引を知るあんたがそういうなら、間違いなさそう」
主人公「ああ、保証するさ」
そこでふと、私は訊ねていた。
衛理「ねえ、私たちは、どこまでいくの」
彼は笑う。
主人公「遠くへ」
私は首を傾げ、ルームミラーへと見つめる。これから未冷の座るところで、彼は微笑む。
主人公「どこにいくかはわからないけれど、僕たちは構わない」
衛理「なぜ……」
彼は答えた。
主人公「みんながいるから」
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