15 coffee

scripter:


 私は、いつものコーヒー豆を挽く音で目が覚める。起き上がってみると、いつものように私の教え子は微笑んでくる。

主人公「おはよう、未冷先生」

 私はぼんやりと頷く。そして周りを見渡すと、真依と衛理が別のベッドで一緒に眠っていた。ふと私は訊ねた。

未冷先生「あなたはあのあと結局どこで眠っていたの?」

主人公「ソファだよ」

 私はため息をつく。

未冷先生「これから作戦なのに?」

 彼はいつものようにできあがったコーヒーの粉を、準備の整ったコーヒードリッパー上のフィルターに流し込む。

主人公「僕はこの先を知っているから、寝る時間も含めて準備は整っている。けれど、みんなは違う」

 私はむくれてしまう。

未冷先生「ちゃんと教えてくれたらいいのに」

 彼はお湯をコーヒー粉に注ぎながら言った。

主人公「知ることは、死を意味するのさ」

未冷先生「意趣返しはもうお手の物だね」

 彼はドリップをゆっくり待ちながら答える。

主人公「そうさ、金融社会は倍返しの文化なんだ」

 私は笑ってしまう。

未冷先生「それ、私は教えた覚えはないけど……」

 やがて彼はコーヒーをマグカップに注いでいく。今日は四人分だ。そのうちのひとつを、彼は手渡そうとするが、訊ねてくる。

主人公「砂糖と牛乳はどうする?」

 私は首を振った。

未冷先生「今日はいい、そのままの味の気分だから」

 彼はマグカップの取っ手をこちらに向けて手渡してくれた。私は両手で受け取り、そして飲む。

未冷先生「おいしい」

 彼は優しく微笑んだ。私も微笑むが、そこでふと訊ねる。

未冷先生「どうしたの、そんなにじっと見て」

 彼は我に帰ったように、

主人公「ああ、大変な一日になるなって思ってさ」

 ふうん、そう言いながら飲んでいると、ふと声が聞こえた。

衛理「そりゃ、好きな相手からおいしいって言われたらうれしいんじゃない?」

 振り返ると衛理が悪い顔で笑っていた。そして、真依も起きていたが、彼女は訝しげだ。

真依先輩「毎日こんな感じなら、私たちここで寝てちゃまずかったかな」

 衛理は頷く。

衛理「それはあるかも。夜に寝言?が聞こえたけどね」

 顔が熱くなる。心臓が高鳴る。言葉が出てこなくて、私は顔を背けた。その先には彼がいたが、彼は動じていない。

主人公「夢じゃないかな。もしくは、衛理はまだ、夢を見ているんだ」

 衛理はため息をつく。

衛理「さてね、私にもちょうだい」

 そう言いながら彼女はベッドから起き上がる。それに真依も追随する。そして彼女たちもコーヒーを飲む。真依は少しうれしそうだ。

真依先輩「確かに、粉っぽくないね」

 彼は肩を落とす。

主人公「その意見はわかるよ、先輩」

 衛理は飲んだまま、固まっていた。私は訊ねる。

未冷先生「どうしたの」

 衛理は、執行者エクゼキューターという物騒な名前の彼女は、この世の終わりのような顔をして言った。

衛理「にがすぎる……」

 彼は頷いた。

主人公「そうだった。牛乳をとってくるよ」

 そうして彼は冷蔵庫へと向かっていく。その後ろ姿を見て、なぜか私は呆然としていた。そして牛乳を衛理のコップに注ぎ、もう一度差し出す彼に、私は訊ねた。

未冷先生「ねえ、私たちこれから、ずっとこうして一緒なんだよね?」

 その言葉に、衛理と、真依も彼を見つめた。彼は笑った。

主人公「ああ。これから僕たちは、星を繋ぐ旅に出るんだ」

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