第4話 性器と人格

男は社会のなかで疲れている。男根に圧迫され、圧倒されている。一方、女は社会のなかで怒っている。さまざまな形で力を奪われている。これらの事実は、学校でも職場でも変わらずに起こっています。その結果どのような心理を招くでしょうか。男には「男根放棄願望」が生まれるでしょう。一方、女には「男根奪取願望」が芽生えるでしょう。では、男根放棄願望とはどのようなものでしょうか。

男根とは、実用性あるいはその実態以上の象徴的な意味合いをもっています。これは、子どもの時、男児が男根を持ち、女児が男根を持たないということを知ったとき、男児は優越感を覚え、同格の父親と、男根を共通の心理発生基盤として「ペニス共感」を持つようになるからです。さらに、ペニス共感は、社会生活の拡大に連動してその規模を発展させ、ペニス共感から「ペニス連盟」ともいうべきものに変容していきます。つまり、ペニスを男性優位の根拠とし、社会のなかで、力なり権力への野心を活力源として、社会を動かす決定権を握りたいと考えます。保守主義とは、ペニスの象徴性を「保つ」ことであり、またその価値を「守る」ことをその由来としています。

一方、女性は、女児だった時に父親の男根を見て、女には男根がないことを知ることになります。これは、同性の母親を憎む感情を生みますが、子どもは例外なく母親の愛情を失くしては生きられませんから、自動的に防衛機制が働いてその感情は抑圧され、いつの間にか健忘してしまう。忘れてしまうのです。けれども、無意識の領域において、男根への憧れと謎は保持されており、これらが要因となって、女性の空想主義ともいうべきものが発達するのです。女性の男根に対する憧れは、「ペニス羨望」などと呼ばれます。それから、男根に対する謎は、すでに述べたとおり、女性の空想する能力を醸成します。往々にしてこれらは、父親に対する尊敬と愛慕そして畏怖といった気持ちが背後に隠れていますが、これらの父親尊重の心理の起点なり核に、男根が象徴としてその役割を代表しています。ですから、女性は、男性のような保守主義に根ざした現実主義より、空想主義に依拠する理想主義に価値を見出だすことが顕著です。これは、男根に対する「謎」が、女性の男根理解の糸口として、その方法に空想することをもってきてしまうからです。

さて、男性の男根放棄願望とは、ペニス連盟の維持に疲弊して、ペニスという「力」を放棄したいという心理を指します。一方、女性の男根奪取願望とは、ペニスという「力」を奪取したいという心理を指します。このような、一時的な心理状態に陥った男女が出会うと、性行為を介して男性は、母親を求める幼児へと退行し、一方、女性は、幼児へと退行した男の側から、ペニスを「奪い取り」、自己の身体にそのペニスを装着しようとするのです。このようにして、ペニスの象徴性が、男性から女性へと譲渡、移譲されるわけです。この場合、男は女児の立場に、女は父親の立場に入れ替わります。ペニスの象徴性が喪われた男は女児に、逆にペニスの象徴性を得た女は父親に同一化します。このような性愛は本来、未成熟なものとされています。それは、自己解放を具現化した、自己開示なりコミュニケーションあるいは、相互尊重の性愛ではなく、権力の所在と所有をめぐる「戦い」としての性愛だからです。

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