第3話 言葉の誕生

人は言葉を話すことができます。話すだけではなく、聴いたり、書いたり、読んだりすることもできます。なぜ、人だけが言葉を使用することができるのでしょうか。社会的動物や社会性昆虫と呼ばれる生き物にも、広義の言葉、あるいは記号コミュニケーションが存在することがわかっています。けれども、われわれが容易に想像する「言葉」というものを使用できるのは人に限られています。言葉はいつ、また、なぜ誕生したのでしょう。

進化論によれば、生物の歴史は生存競争の歴史であり弱肉強食の世界においては、敗れた者は淘汰されるといいます。一個体の存続は専ら、食物摂取を維持することに基づいていますが、種の存続は生殖活動と不可分です。

さて、霊長類においては、進化の過程は、より子どもに近い方向性で動いてきました。子どもに近い、とは、ネオテニーなどと呼ばれています。筋肉質から華奢な身体に、筋力から感情表現に、身体は裸体化の傾向が進みます。それから、男根は、より大きく進化してきました。これらの、霊長類の進化の特徴を総じて、ネオテニー化といいます。この延長線上にヒトの言葉が誕生しました。なぜか。ネオテニー化は、性器、生殖行為の器官という機能を超えて、性欲という、純粋に種の存続を図る生殖器とは異質な、人の欲動とつながっている複雑な「心理器官」としての「性器」というものを生み出したのがその原因です。直立二足歩行の段階で、男女のヒトが向き合えば、男の側は、女の視線が自分の男根に向いているのを認識してしまうでしょう。ヒトの眼球は白目の部分がありますから、黒目の部分がどこを向いているか、つまり視線が何に向けられているかが判然としてしまうのです。女の視線が男の男根に向いているのを男が認識してしまうとき、生殖器のなかに、「恥じらい」という心理要素が合算され、「性器」という心理複合器官が誕生し、その器官をもって、いよいよ、男は言葉、とりわけ発話行為が発生したのです。女の視線が男の「恥じらい」の心理を自覚させたのですから、この恥ずかしさは、発話行為を通じて女の視線を外し、その恥ずかしさから逃れることが必要だったからです。ですから、男の話す言葉は、真の内容をもってはいなかったことをその起源としています。一方、女の言葉は、「男に恥じらいを自覚させたことを自覚する」ことを起源としています。つまり、なぜ、一般に女性の方が、コミュニケーションの言語使用に長けているか、ということですが、女の視線が善意で男の恥じらいを誘発してしまったことの罪悪感が、相手の心情を読むことに長けたコミュニケーション言語を尊重する動因としてあるのです。他方、男性は、なぜ、命令言語、あるいはオーダー言語が目立つかといえば、その言葉の起源を「男根を見るな」ということを暗示する方法としているからです。

このような経緯で言葉が誕生するに至ったのでしょう。

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