映画館にて

 昼食後、いい時間になったので四人は映画館へと向かう。

「チケットは真田任せだったが、何の映画をみるんだ?」

「おう! 『今日一回限定』っていうプレミアム感溢れる映画があったからそれにしたぜ」

「なんていう題名? 私でも知ってるかな」

 遥香の言葉に真田はチケットを確認する。

「え~と、『プラン9・フロム・アウター・スペース』だな!」

『ざわ!』

 真田の言葉に周囲にいた一部の映画ファンがざわつく。

 それに首を傾げながらも海野は会話を続ける。

「有名な映画なのか?」

「あれ? 海野くんって映画好きだったよね?」

「遥香。長秀くんは最近からちょっと古めの映画ばかりみるからあまり古い映画は知らないのよ」

「俺に対する質問をなんで木曽が答えんの?」

 海野の判眼に綴は胸を揺らしながら張る。

「私が行動把握系乙女だからよ」

「木曽さんは一途だなぁ!」

「ぶっとばすぞ真田ぁぁ!」

 真田と海野による胸倉の掴み合いが発生したがおおむねいつも通りである。

 そんな二人を見ながら苦笑しながら遥香が口を開く。

「あはは……海野くんはこの映画館によく来るの?」

「そうね。だいたい週一、休日のバイト上がりに来る感じね」

「だからなんで俺の質問に木曽が答えるの?」

 海野の言葉に綴は優しく微笑むことでその疑問を流した。

「じゃ、じゃあ! 信高くんがどうなのかな⁉」

「なんで遥香は俺に対する質問にこんな緊張してんの?」

「愛だからだろうな」

「愛だからでしょうね」

「海野くんと綴は黙って!」

 二人の突っ込みに顔を真っ赤にしながら怒鳴る遥香。まったく悪びれる様子なく「怖い怖い」という海野と綴。

 控え目に言って二人ともクソであった。

「俺はだいたいアニメ映画とかかなぁ」

「あ、天気の子とか?」

「そうそう」

「嘘つけ。プリキュアだろうが」

「女児向けアニメとバカにするなよ海野! プリキュアは名作だ!」

「長秀くんは見てないの?」

「俺はテレビシリーズ未視聴だからな。それじゃあ全力で楽しめないだろ」

「あれ? 俺、海野にプリキュアシリーズのブルーレイ貸したよな?」

「すまん、まだみれてない」

「マジかぁ……」

 ちょっとしょんぼりする真田を見て顔を赤くする遥香。そんな遥香に海野が呆れたように突っ込む。

「落ち込んでいる姿に興奮するなよ」

「こ、興奮なんかしてないよ! 新鮮な姿にちょっとテンションが上がっているだけだよ!」

「うちの学校って本当にキワモノしかいないわよね」

「そのキワモノ筆頭の言葉じゃなくね?」

 お前が言うなのブーメランが飛び交っているが、海野が腕時計を確認すると真田に声をかける。

「真田、そろそろ上映時間だ。入ろうぜ」

「え? 他の映画の予告編とか入るからまだ大丈夫だろ?」

「は?」

「え?」

 海野の『おまえマジで言ってんの視線』を受けて不思議そうに首を傾げる真田。

 そして海野は少し震えながら口を開く。

「真田、お前まさか最初の予告編を見ない派か?」

「? ああ」

 真田の肯定に海野の表情が変わる。

「ありえない!」

 力強い否定の言葉である。そして海野の怒涛のトークが止まらない。

「お前映画の予告編をみないとかカレーに福神漬けがないようなものだぞ⁉ 面白そうなカットだけをうまく繋ぎ合わせて興味を惹かせるその手法! 中身もともなって最高だった時は予告編も含めて最高! って気分になるが逆にクソ映画だった時は『この予告編詐欺が!』って罵倒もできるんだぞ⁉ なんだったら映画館によって違う上映前のCMだって楽しめる。それと洋画とかにでてくる『ドゥーン』っていう効果音を聞いた時には『お~、これこれ。映画見に来たわぁ』って気分に浸るだろ⁉」

「とりあえず話半分に聞いていた結果から突っ込むとカレーに福神漬けがなかったららっきょう入れたらいいんじゃないか?」

「そういうことじゃないんだよ!」

 真田の肩をガクガク揺する海野。真田はそれに対して呆れたように遠くをみるだけだ。

 そんな二人を見ながら遥香は声をかける。

「あ、私ジュース買ってくるけど、みんなはいる?」

「え?」

「え?」

 遥香の言葉に信じられない表情をするのは綴だ。そして綴はおずおずと口を開く。

「遥香、貴女まさか上映中に飲む派?」

「え? う、うん。あんまり映画には来ないけど、来たら買うかな」

「信じられない!」

「えぇぇぇぇぇぇ!」

 綴の突然の言葉に遥香が驚きの声をあげてしまう。そして綴は遥香の肩をガッチリ掴みながらまくしたてる。

「駄目よ遥香! ジュースやポップコーンなんて上映中に食べられたり飲まれたりしたらその音でせっかくの映画の雰囲気が台無し! しかも終盤になるに従ってトイレとのチキンランも始まるのよ⁉」

「海野はその辺どうなんだ?」

「ジュースとかポップコーンの映画館に対する収入って意外とバカにできないから俺は認めてる」

「そう! 私が長秀くんを許せない数少ない欠点がそこなのよ! でも大好き! 愛してる!」

「俺はそうでもない」

「そんなつれないところも大好きよ」

「木曽さんはマジで逞しいなぁ」

「……私も見習ったほうがいいのかなぁ」

 最後に遥香が不穏なことを言いつつ四人は上映スクリーンへと向かうのであった(なお、ジュースとポップコーンは買った)


 結論から言うと映画をみた後にあまりの作品に真田は海野に殴られることになったのを追記しておく。

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