水着選び

 春先なのに水着売ってるのかという疑問も『水着は年中着ていい! むしろ着てください!』という逞しい店主のお店があるので四人は水着ショップに入る。

「お、この白とか偽清純系な村上にいいんじゃねぇの?」

「バカめ。清純系=白という発想は素人だ。清純系にも関わらず黒! これがいいんだよ!」

「言い争っているところ悪いけど長秀くんと真田くんの水着のサイズじゃ遥香の胸入らないわよ」

「綴の突っ込みは無視するけど信高くんと海野くんの反応普通すぎない? 普通は少しくらい照れが入らない?」

 白のビキニを持った海野と黒のビキニを持った真田は不思議そうに首を傾げる。

「こんなのただの布だろう」

「海野くんは海野くんすぎるよ……」

「俺は持ってるからな!」

「待って」

 自信満々に胸を張って言い放った真田に遥香は思わず突っ込む。

 そしてゆっくりと遥香は真田に質問する。

「持ってるの?」

「持ってるぞ」

「……女性用水着を?」

「? 当然だろ」

「当然⁉ え⁉ まさか信高くん女装趣味が⁉ 嘘、やだ、みたい!」

「海野、海野。なんか遥香がとち狂ったこと言っているんだけど」

「己の欲望に忠実だな」

 布面積の低い水着を身体にあてている綴を無視しながら海野は会話をする。

「村上、勘違いしているようだが真田が女性用水着を持っているのは小説の資料としてだぞ」

「バカ野郎! 趣味でもあるよ!」

「バカはお前だ変態女装全裸」

「変態女装全裸って真田くんキャラ濃すぎじゃないかしら?」

「クォーター銀髪美女生徒会長品行方正優等生行動把握系乙女の木曽さんも充分にキャラ濃いと思うよ」

「それだけ聞くと木曽ってギャルゲーのヒロインみたいだな?」

「ふふふ、長秀くんは私ルートに入らない?」

「そのルート選ぶと自動的に人生の墓場まで一直線だから入らない」

 海野の言葉に心外そうな表情を浮かべる綴。

「人生の墓場で終わりじゃないわ。死んだ後まで一緒よ」

「聞いたか真田。これがリアルのクソ重女の実態だ」

「木曽さんは一途だなぁ!」

 真田の言葉にガンのくれ合いが発生したが、店員から飛んできたハンガーが壁に刺さったので二人も大人しくなる。

「で? 水着ショップでどうすんだ?」

「遥香に似合う水着選びイベントしようぜ!」

「よしきた」

「え⁉ 即答⁉ いやいや、二人とも⁉」

 海野の言葉に元気よく答える真田。それに即答する海野。そして遥香は焦りながらそんな二人を追いかけるのだった。


 三十分後。


 試着室の前に海野と真田がガイナ立ちをしながら向かい合っている。

「海野、勝負の内容はわかってるな?」

 真田の言葉に海野は頷く。

「当然だ。どちらがより相方に似合う水着を選んだか……敗者は勝者に昼飯を奢る」

『長秀くん、相方じゃなくて彼女と言って』

 試着室から聞こえてくた綴の言葉を海野は無視した。

「よし、じゃあまずは俺からだな。木曽」

 海野の合図に綴が入っている試着室のカーテンが開かれる。

 黒のスリングショットを着て、ナイスバディを惜しげもなく披露している綴の姿であった。

「ぐっはぁぁぁぁぁぁぁ!」

 思わず鼻血を噴き出す真田。それほどまでに綴のスリングショットは威力が高かった。具体的にいうと性知識を覚え始めた小学生が完全に覚醒するレベルですさまじかった。

「姉曰く『女の身体は時に武器にもなる』。その教えを忠実に実行するにはこの水着が一番だった」

「く! このお店が『撮影厳禁』でなかったらスマホの容量がいっぱいになるレベルで連写するところだった……!」

「ちなみに私は長秀くんの部屋でこの下も披露する覚悟もあるけど?」

「その覚悟は一生仕舞っておいてくれ」

 性欲下半身猿な男子高校生だったら思わず前かがみな恰好になっている木曽に対して冷たい反応をとる海野。

 そんな海野をみながら『こいつホモなんじゃねぇの?』と思いながら真田は鼻血をふく。

「ふぅ、部室で海野先生が酔っぱらって下着姿になっていなかったら無条件降伏するところだった」

『海野先生は何をしているの⁉」

 思わずと言った感じで遥香が入っている試着室から突っ込みが飛んでくる。

「それで真田。木曽のこれに勝てるつもりか?」

 海野の勝ち誇った表情を見ながら真田は不適に笑う。

「肌色面積の広さがエロスに直結しないことを教えてやろう」

「ほう」

「hey! カモン! 遥香!」

『う、うん』

 そして遥香が入っていた試着室が開かれる。

 綴に敗けず劣らずのナイスバディをスクール水着(旧式)に押し込めて恥ずかしそうに着た遥香であった。

「「ぐっはぁぁ!」」

「ええ⁉ 海野くんだけじゃなくて綴もその反応⁉」

 思わずのけぞった海野と綴。それに突っ込む遥香。

 そして真田が不適な笑みを浮かべながら説明を始める。

「スクール水着……今はもうなくなってしまった過去の遺産。だが、そのエロスは令和になった現代でも通じる代物……! みよ! この『成長過程のナイスバディがギチギチにつまってしまった水着の肉感』を……! そしてそれをみてしまったという背徳感を……!」

「た、確かにこれは破壊力あるな。だが!」

 海野はくわっと眼を見開く。

「『肌色面積の広さ=エロス』の方程式は性が目覚めた時に感じる原初のエロス!」

「否定はしない! しかし人は日々進歩するのだ! そう! 『肌色が隠されているほうが妄想できて逆にエロイ』という真理に達するのだ!」

「お願いだから二人とももうちょっと静かにして!」

 エロス論争を始めた真田と海野に涙目で叫ぶ遥香。そして綴はスクール水着を持って試着室へと消えた。


 なお、勝負の結果はお店の店長が『いいものをみさせてもらった』と遥香と綴にお金を払ったことで引き分けとなった。

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