ようやく始まるデート

「で? この後すぐに映画館か?」

「木曽さんに敗北した海野で空気がうまい!」

 真田の煽りに海野から高速蹴りが繰り出されるが、真田はそれをパリィで防ぐ。

 そしてメンチのくれ合いを開始した。

「あの……二人とも、ここは人込みだから……」

 遥香の弱弱しい言葉に真田と海野はお互いに中指を立て合いながら離れる。

 そしてそれを見ていた綴(当然のように海野の腕にくっついている)が口を開く。

「遥香、せっかくのデートなんだから腕くらい組んだらどうかしら?」

「俺はデートのつもりは欠片もないから離れてくれ」

 海野の言葉を綴は無視した。

 綴の言葉にどこか遠慮がちに真田を見る遥香。

「え~と、信高くん。いい?」

「清純系の皮をかぶった肉食系がちゃんちゃらおかしいな」

「海野くんは黙って」

 海野の突っ込みに殺す眼つきで海野を睨む遥香。

 そして真田は高らかに宣言する。

「ぜひ頼む」

「うん! ぜひって言われちゃったもんね! ぜひって言ってもらって断ったら悪いよね!」

「あいつ誰に言い聞かせてるんだ」

「きっと真田くんから言質をとったと思っているのよ」

 海野と綴の言葉を無視して遥香はすすすと真田の隣に立ち、腕を組む。

 そして真田の眼が光った。

「エウレェェェェェカ!」

「え⁉ なに⁉」

「馬鹿が何か閃いただけだから気にするな」

「信高くんは何か閃くとこんな反応をとるの⁉」

 同好会では割と珍しくない行動なのだが、普段は女子テニス部のエースをしている遥香には新鮮な反応だったらしい。

「海野! 海野! 俺すげぇことに気づいた!」

「あまり聞きたくないが聞いてやろう」

「腕組まれるとおっぱいが腕にくっつくんだよ!」

 その叫びに周囲にいた野次馬の視線が大きい遥香の胸部装甲に集中し、遥香は顔を真っ赤にしながら胸を隠す。

 その反応にも興奮しながら真田はメモを高速でとる。

「あ! なるほど! 実際に腕組みイベントを起こすとそんな初心な反応が帰ってくるんだな! 海野と木曽さんだと特殊例すぎて参考にならなかったから超取材になる!」

「ちなみに長秀くん、私のカップ数はFもあるんだけど?」

「姉さんはGあるぞ。出直してこい」

「ファッキン海野先生」

「二人もちょっとは止めてくれないかなぁ!」

 真田の言葉に海野と綴の会話で遥香の心からの叫びが出た。

 それからしばらくわちゃわちゃしていたが、四人はようやく巨大商業施設モールテラス湘南に向けて歩き出す。

 歩き出すと言っても改札から歩いて一分で着くような立地だ。すぐにお店内に入る。

「すぐに映画か?」

「いや、予約した映画はまだ時間あるからデートっぽいことしようぜ!」

 海野の言葉に真田が笑顔で告げる。その言葉に海野は首を傾げた。

「デートっぽいことってなんだ?」

「なんだよ、海野。お前海野先生っていう超絶美女先生とか木曽さんっていう美少女侍らせておいてデート童貞かよ」

「姉さんに関してはあ、ダメだ。これ話すと警察のお世話になる可能性がある」

「海野くんと海野先生は普段なにしているの⁉」

「ダメよ遥香。素人に長秀くん達の休日デートは強烈だわ」

「むしろなんでお前は知っているのか」

 海野の言葉に綴は胸の谷間から『マル秘! 長秀くん手帳!』なるものを取り出した。

 三人は揃ってそれを見なかったことにして会話を続ける。

「で? どうするんだ言い出しっぺ。一応、何か考えているんだろ?」

「ああ、長年ラブコメ小説やラブコメ漫画を読んできた俺のパーフェクトアンサー……そう! ずばり水着選びだ!」

「季節はやくね?」

 海野の言葉に真田は指をちっちっちと振る。

「いいか海野。女子は男子と違ってすぐに水着を買い替える。それが何故かわかるか?」

「流行りとかじゃねぇの?」

「愚か者!」

「やべぇ……マジもんの馬鹿に愚か者扱いされたら殺意しかわかねぇ」

 海野の言葉を真田は無視して言葉を続ける。

「いいか、海野。男子と女子には致命的な違いがある。それが何かわかるか? そうおっぱいだ」

 真田の言葉に海野の視線が自然と遥香と綴の胸部装甲へと向かう。

 顔を真っ赤にして隠す遥香と海野に対しては見せつけていくスタイルの綴。

 とりあえず二人の反応を無視して海野は真田を見る。

「まぁ、確かに二人とも立派なものを持っているようだが、それがどうかしたか?」

「いいか、海野。俺のリサーチによれば女子は毎年のように水着を買い替える娘もいる。それが意味することは一つ……!」

 そして真剣な表情で口を開く真田。

「ずばり一年で胸がおっきくなって去年のは入らなくなるんだよ……!」

「木曽、その辺どうなんだ?」

「いや、普通に流行りじゃないかしら」

「というか三人ともこんな人がいっぱいいるところで胸について語り合わないで!」

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