待ち合わせ

 日曜日。真田と海野の二人は電車に乗って隣の駅を目指していた。

 メモ帳にペンを持った真田と心底嫌そうな表情を浮かべる海野。そんな海野を見て真田は不思議そうに首を傾げる。

「そんなに嫌だったら『バイトがある』って断れば良かっただろ?」

「木曽が俺のバイトスケジュールという基礎知識を知らないとでも思っているのか?」

「木曽さんは逞しいなぁ!」

「貴様は殺す」

 ガチで殺す眼つきで真田を睨む海野。だが、真田もそんな視線には慣れっこなので気にしないで笑う。

 海野もため息を一回吐くと会話を続けた。

「だが、なんでわざわざ最寄り駅で待ち合わせなんだ? どうせ乗り込む駅も全員同じなんだからそこで待ち合わせにすればいいだろう」

「デートの定番と言えば『待った?』『いや、今来たところ』を取材しておきたいと思ってな」

「取材か。なら仕方ないな」

 基本的に鬼畜でクソで外道な海野だが小説の取材に関しては寛容である。以前にも取材のために真田を崖から海に蹴り劣りて感想を聞くという殺人一歩手前の行動をしている。

 そして真田も小説の取材のためなら身体を張ることをいとわない。小説で柔道を扱うことを決めた時にはガチホモしかいない片海高校柔道部に仮入部し、もう少しで後ろの処女を失うところであった。

 そう、基本的に二人は似た者同士なのだ。

 電車が駅へと止まり、二人は降りる。

「しかし、なんでモールテラス?」

「映画館もあるからちょうどいいかな、と」

 海野の問いに真田が答える。今回のデート先は駅直結の巨大商業施設である。そこには多くのお店や映画館が入っており、若者のデートにはちょうどいい。

 二人は駄弁りながら階段を上がって改札を出ようとする。

 そしてそれに気づいた。

 改札を出た正面の壁に大きな人だかり。そしてその中央には美少女が二人。

 服装からメイクまでばっちり決めた遥香と綴であった。

 真田と海野は無言でお互いの恰好を確認する。

 真田→カーディガン、ジーパン。

 海野→ジャケット、チノパン。

 はっきり言って遥香と綴の隣に並べる恰好ではなかった。

 改札から出る前に二人は作戦会議。

「え? 待って待って、木曽さんはわかるけど、なんで遥香もあんなにばっちり決めてるの?」

「それがわからないからお前は童貞なんだよ」

「童貞は海野もだろ!」

「俺は三十歳まで童貞を守ったら魔法使いになれるか試しているから」

「その前に木曽さんに奪われると思う」

 真田と海野がガンのくれ合いが発生したが、そんなことをしていても仕方ないので二人は改札から出る。

 そしてどうやって二人のところまで行こうか悩んでいたところ二人に動きがあった。

「ねぇ、君たちヒマなの?」

「俺達と一緒に遊ばない?」

 そうチャラ男達にナンパを受け始めたのだ!

 それを見て海野は真田を見る。

「どうする?」

「あ、ちょっと待って。生チャラ男のナンパとかこれ以上ないくらいのネタになる」

「じゃ、しばし静観だな」

 はっきり言って二人ともクソであった。

 そしてそんなチャラ男に絡まれた二人であったが、焦る遥香を他所に綴の瞳は絶対零度の冷たさであった。

 極寒の寒さの視線に冷や汗を流しながらも諦めないチャラ男’s。逞しい。

 そして一人のチャラ男が慣れ慣れしく綴の肩に手を置こうとした瞬間にそれは起きた。

 綴の高速ジャブが肩に手を置こうとしたチャラ男の顎を撃ち抜いたのだ。

 プロボクサーも真っ青なジャブを繰り出した綴は崩れ落ちるチャラ男を指差しながら、もう一人のチャラ男に話しかける。

「私達は想い人と待ち合わせの最中なの。これと一緒にどっかいってくれる?」

「ハイ」

 綴の言葉に頷いたチャラ男は気絶しているチャラ男を担いで急ぎ足で逃げていく。そして綴達を遠巻きに見ている人々を見渡して綴はパーフェクト笑顔を浮かべて一言。

「なにか?」

 その一言で人込みは散っていった。残されたのはメモ帳に熱心にメモをとる真田と呆れながら見ている海野だけであった。

「真田、今の使えるか? 女のほうがボクサーだったぞ」

「いやいや海野。今の時代強い女性物もうけるからいけるって」

「その前に二人は助けるって選択肢なかったのかなぁ!」

 遥香渾身の突っ込みである。遥香の突っ込みに真田は首を傾げながら口を開く。

「俺達が助けることになると警察沙汰になってデートどころじゃなくなるけどいい?」

「なんで助ける行動が警察沙汰になるの……⁉」

 驚愕する遥香であったが、事実警察沙汰になるのだから仕方ない。

 ちなみに海野と綴は腕を組もうとする綴とそれから逃げる海野の構図になっていた。

「え、と……私の今日の恰好はどうかな?」

「あ、その前に『待った?』『ううん、今来たところ』やっていい?」

「全てが台無しだよ!」

 完全にデートのつもりの遥香と、あくまで小説の取材というスタンスの真田。その差から出る悲しきすれ違いだった。

 呆れたようにため息を吐く遥香。

「信高くん、それじゃあどうぞ」

「お、悪いな。それじゃあ……お待たせ遥香、待ったか?」

「はぅ!」

 真田の言葉に顔を真っ赤にして胸を抑える遥香。乙女的にありなやりとりだったらしい。

 一度大きく深呼吸をしてから満面の笑みを浮かべる遥香。

「ううん、今来たところだよ」

「……おぉ! これはなかなかいいな! うん! ネタになる!」

 遥香とのやり取りでメモ帳に熱心にメモをとる真田。

 そんな初々しい?やり取りをしている二人を見ながら綴は口を開く。

「どうかしら長秀くん。私達もやってみない?」

「だったら腕を組むように見せかけて関節極めるのをやめてくれ」

「解いたらどうする?」

「ダッシュで逃げる」

「じゃあダメね」

「ファッキン」

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