眠たくない話

@chased_dogs

眠たくない話

 ある日、女の子が目覚めると、布団が重くのしかかっていました。眠る前は羽根のように軽かったのに、今はどうしてか重く感じるのです。それから、枕も大きすぎるように思いました。眠る前は頭をすっぽり覆ってくれて、とても寝心地が良かったのに。

 女の子は、重くなった布団から、やっとの思いで這い出ると、ベッドの下を見ました。

「わっ!」

 女の子は驚きました。何故って、眠る前は踏み台がなくても登れるくらい小さかったはずなのに、今では女の子の体よりずっとベッドが大きくなっているからです。そこで女の子は気が付きました。

「いいえ。ベッドが大きくなったんじゃなくて、私が小さくなったのだわ!」

 女の子は、床へ落ちないように、慎重に慎重にベッドから降りました。

 それから、部屋のドアへ向かう途中、大きな姿見の前を通りました。姿見の前を黄色い影が通ります。何だろう、と女の子が振り向くと、鏡の前には一匹の黄色いカエルが映っていました。けれど、女の子はどこにもいませんでした。

「私、カエルになっちゃったのかしら」

 女の子はビックリして、黄色いカエルは紫のカエルになりました。

「どうしましょう。どうしましょう」

 女の子は元の姿に戻る方法を考えましたけど、何も思いつきませんでした。

 ふとドアの外を見ると、草木が青々と輝いて見えました。

「昨日、雨が降ったから草木が喜んでいるのね」

 と女の子は思いました。外の景色を見ていると、女の子はなんだかお腹が空いてきましたので、外に出ることにしました。


「やあ、カエルのお嬢さん。はじめましてだね」

 庭に出ると、ミミズが顔を出しました。

「紫のカエルなんて珍しい。ここへは何しに来たんだい?」

 突然、ミミズに訊ねられて、女の子はどう答えていいか分からずもじもじしてしまいました。それでもミミズは女の子をじっと待ってくれ、女の子はやっとのことで答えました。

「私ね。カエルじゃ、ないの。本当は、あの、人間なの」

「へぇ! 人間かい、あの? お嬢さんみたいなカエルは本当にはじめてだよ!」

 ミミズは愉快そうに言いました。女の子も釣られて愉快そうに笑いました。笑っているうちに、女の子はお腹が空いていることを思い出しました。

「ところでお腹が空いているのだけど、どこかに食べるものはないかしら?」

「本当にこの辺ははじめてなんだね。いいかい、あっちの方にずっと行くと池があるから。そこに君の好きそうな虫でもなんでもあるはずだよ」

 虫を食べるの、と女の子は思いましたが、不思議と嫌な気持ちはしませんでした。

「ありがとう。あっちに行けばいいのね」

「そう、あっちだよ。じゃあ、さようなら」

 それから女の子はミミズと別れ、池へ向かって歩いていきました。


 池につくと、確かに美味しそうな虫がたくさんいました。それに、寝心地の良さそうな苔も生えていました。

 女の子は夢中になって虫を食べ続け、お腹がいっぱいになるまで食べました。

 お腹が満たされ、柔らかい苔を枕に微睡んでいると、女の子は急に思い出しました。

「そうだ。私って元の姿に戻りたかったのだわ」

 それから、あのミミズに元の姿への戻り方を聞きに行くことにしました。


 池から戻って、庭の近くを探していると、またミミズに出会いました。

「やあ、久しぶりだね。まだ何か用かい?」

「私、元の姿に戻りたいのだけど、もし知っていたら、戻り方を教えてくれないかしら」

 女の子の言葉を聞き、ミミズは難しい顔をして伸び縮みをし始めました。それからしばらくして、ミミズは言いました。

「ううん。全く心当たりがないね。でも、君はどうやってカエルになったんだい? カエルになったときと同じことをすれば、もしかしたら戻れるかも知れないよ?」

 ミミズの言葉を聞いて、女の子はハッとしました。

「ありがとう。やってみるわ」

 そう言って、女の子は自分の部屋へ戻っていきました。


 女の子は自分の部屋に来て、ベッドをよじ登って、布団に入ります。それから、天井を見つめて、眠ろうとしました。でも、なかなか眠れませんでした、眠くなれ、眠くなれ、と念じてみても、目が覚めてしまって眠れません。

「こういうとき、どうして眠っていたのだっけ?」

 眠ろうとして、天井を眺めていると、ハエがぶぅんと飛んできました。女の子は思わずハエを食べました。それから思い出しました。

「そうだった! 眠れないときは、温かいミルクを飲んで、それからクッキーを少し食べていたわ!」

 女の子はベッドから飛び起き、外に出て、葉っぱでコップを作り、それにお水を入れると、ベッドの横まで持って行きました。

 コップの水を飲みながら、ときどきやって来るハエを食べていると、女の子はだんだんと、だんだんと眠たくなっていきました。


 いつまでそうしていたのでしょう。女の子は目を覚ましました。布団はいつもみたいに軽くって、枕もすっかり寝心地よくなっています。足を伸ばすとベッドの下の床に足がつきました。

 女の子は起き上がって、姿見の前に立ってみました。鏡の中には、一匹の白いヤギが映っていました。

「うん。いつも通りだわ」

 それから女の子は、外の陽光に誘われて、部屋の外へ出ていきました。

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