22:00

あぁ…、カッコつけて1万円なんか渡さなきゃ良かった。

今日は日曜日だからお客さん自体少ないんだった。


俺は肩を落としながら休憩室にあるウォーターサーバーのお湯を貰い、お茶を作っていると誰か部屋に入ってきた。


「あー!優くん、久しぶりだね!」


部屋に入ってきたのは瑠愛るあくん。


耳にはいつもピアスいっぱいで右の目尻にホクロみたいな薔薇のタトゥーが入っていて、自分の好きを詰め込んだみたいな人。


今は淡いピンクの髪色をしていてパーマも当ててるから綿菓子みたいで可愛い。


夏「瑠愛くん、お久しぶり。今終わったとこ?」


瑠愛「おひさぁー。そう!これで…?4人目かな?」


夏「今日は瑠愛くんの日だね。」


俺は瑠愛くんの分もお茶を作って渡す。


瑠愛「ありがとう!まあ、さぼってたから頑張んないと。」


笑いながらお茶を飲み、ソファーに寝転がる瑠愛くん。

すると、そのままカバンを漁ってタバコを取り出した。


夏「あれ?瑠愛くんってタバコ吸ってたっけ?」


瑠愛「吸わないよー。」


夏「なんで持ってるの?」


瑠愛「名刺代わりと好きな子とキスするため♡」


瑠愛くんはキスのことを思い出してるのかとても嬉しそうな顔をしてる。


夏「瑠愛くんの好きな子ってどんな子なの?」


瑠愛「今好きな子はお兄ちゃんな感じかな。」


夏「へー、年上なんだ。」


瑠愛「ううん、年下。」


夏「大人っぽいってこと?」


瑠愛「大人になりきれない子どもかな。」


お兄ちゃんだけど子どもっぽいってどんな感じなんだろう…?


俺はそこ感覚が分からず、質問を続ける。


夏「けどお兄ちゃんなんだ?」


瑠愛「うん。俺の好きなことしてくれるし、ご飯ご馳走してくれるし、俺にいっぱい優しいんだよね。」


夏「いいね。告白するの?」


瑠愛「しないかなー。女の子と遊んでるし。」


瑠愛くんは少ししょんぼりとした顔をしてしまった。


夏「…そっかぁ。あれ?でもキスしてくれるんだよね?それで脈なしなの?」


瑠愛「俺がさせてるから脈のカケラもないんだよぉ。おじちゃん、ちゃみちぃよぉ。」


俺は泣くふりをする瑠愛くんの背中を撫でて慰める。


瑠愛「…でもいいんだっ。いっくんも俺と一緒で今を楽しみたい人って分かってるから。」


夏「いっくんとは相性いいんだね。何歳なの?」


瑠愛「22歳って言ってた。まだ学生だけど遊び散らかしてるよ。」


夏「へー、お金持ち?」


瑠愛「うん。いつもみんなの分奢ってくれる。バイトもしてないから親の金だろうね。」


…いいなぁ。

俺だったらそのお金で学費払って、いい部屋に引っ越して、我慢しないで画材を集めるのに。


でも、いっくんって子はそのお金で人と楽しむ時間を買ってるんだろうな。


そんな事を1人で考えてると、瑠愛くんが何かをひらめいた顔をして俺に微笑む。


瑠愛「今度一緒に遊ばない?優くんといっくん歳近いから仲良くなれそう!」


夏「いっくんって子がいいよって言ってくれるならね。」


瑠愛「大丈夫、大丈夫!とりあえず月末に休み合わせようね!」


夏「分かった。」


瑠愛くんは嬉しそうに携帯をいじり始めた。

きっと、いっくんとメッセージのやり取りをしてるんだろう。


瑠愛くんの様子を見て俺は心和ませていると、俺の携帯に店長から電話が来る。


『お待たせ。新規のタムラさん、指名で3時間なんだけど、好みだったら泊まりのコースに変更するかもって言ってたから頑張れ。』


夏「はい、分かりました。」


『メッセージで場所は送ったからよろしく。』


夏「はい、ありがとうございます。」


俺は電話を切って荷物をまとめる。


瑠愛「戻ってくる?」


夏「もしかしたらお泊りコースかも。」


瑠愛「そっかぁ。頑張って!」


夏「ありがとう。」


俺は瑠愛くんに手を振り、タムラさんが待つホテルに向かった。





→ カーテンコール

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