7/4
7:00
もう7時か…。
昨日はお泊りコースがなかったからそのまま家に帰って、新しい絵の下書きを描いてたらもうこんなに時間立っていた。
俺は深呼吸しながら体を伸ばす。
少し寝ないと夜に響くから片付けて寝よう。
俺は眠気と戦いながらキャンバスや画材を片付けてシャワーに向かう。
昨日は土曜日だから店自体は忙しかったけど、俺の体感そんなに稼げなかった。
昨日は雑費引いて4万くらい。やっぱりロングじゃないとなかなかきついな。
頭を洗いながら毎日の給料を無心で計算しているとふと嫌な記憶を思い出してしまった。
お金がない頃の記憶。
いつも忙しくしていたから思い出さなかったのに、こうやって時間に余裕があったりすると思い出してしまう。
夏「…痛い。」
痛くもないのに体の奥から殴られたような痛みが走ってしまう気がして目をきつく瞑る。
俺はそのまましゃがみこみ、落ち着くまでバスタブの中で体を震わせる。
俺が覚えてるのは母親とその父が俺に何の脈絡もなく暴力を振るってくる事。
俺が家にあった雑誌を見てたり、テレビを見てたり、食べ物を探してた時だって静かに俺を痛めつける。
たくさん『いたい』『ごめんなさい』『ゆるして』って言っても、悪いことをしてる訳じゃないからその暴力は大人2人が気がすむまでやられる。
気が滅入ってたから、酒が入ってたから、どうかしてたんだ。
そんなことを言う人は絶対信用しない。
人や動物に当たっても人生好転するわけがないのに傷つける。
そして当たりどころが悪ければ気を失い、死まで直結してしまう。
俺が言葉をまともに喋れない頃、俺のおじいさんが俺に万引きをさせたことを今でも覚えている。
その時、ちゃんと店員に見つけてもらえて俺は犯罪者になることはなかったけど、あの乾麺を持って帰っていたら俺は今こうやって生きてるのだろうか。
そういう大人2人に育てられ、お腹が空いたと思ってもそれを発言しただけで暴力を振るわれる、あの小さい世界が俺の全てだと思っていた。
けど、ある日突然やって来た熊谷さんが俺のために嘘を撒き続けて俺を助けてくれた。
熊谷さんは俺を助けた後、施設に入れてくれた。
そこで俺は同い年の子たちやお姉さんお兄さん、妹弟に出会って、絵にも出会えた。
あそこはとても殺風景だったけど、人がとても温かくて何もなくても楽しかった。
お腹が空く頃にちゃんとご飯も出てきて、お小遣いももらえる。
本当に夢のような場所だった。
俺たちには育てのお母さんとお父さんがいたけれど、産んでくれた両親がいないのが急に寂しくなる時があった。
今の俺はあの2人の元にずっと一緒にいたら確実に死んでいたと思えるけど、言葉も拙くて自分の世界だけを信用していた唯一の肉親が急にいなくなってしまったのは本当に寂しかった。
子どもは親を選べないと言うけれど、こうやって寂しくなるのは子どもが親を選んで生まれたからだと俺は思う。
今では本当に薄っすらとした顔でしか思い出せなくなった2人だけれど、俺とは関わらずに元気に暮らしてくれればいいなと思う。
俺は熊谷さんに教えてもらったおまじないを思い出して唱える。
夏「…彼方の星が夏空光り、俯くひまわり顔あげる。」
何度か唱えて落ち着きを取り戻し、目を開けて自分の両手を見る。
誰もこの手で傷つけてない、大丈夫。
俺はそんなことしない、大丈夫。
この手は想いを伝えるために使うもの。
人を傷づけるためにあるもんじゃない。
俺は立ち上がって洗い残した泡を流し、風呂場から出る。
嫌なこと思い出したから寝れるか不安だ。
もし、1時間横になって寝られなかったら外に気晴らしに行こう。
俺は服を着るのも忘れ、布団の中に入って目を瞑った。
→ たまゆら
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