22:00
「ただいまーっと…。」
俺の家は繁華街のハイカラ町裏にある廃れたアパートで家賃4万。
風呂付き、トイレ付き、南窓、2階角部屋ではあるけれど、木造建てで上がる階段はとてもさびていて毎回登る度ヒヤヒヤする。
誰もいない部屋に俺は帰宅を知らせて大量に買った画材を部屋に置いて手を洗う。
この手が俺の作品を生み出すから荒れないよう、高校の時に見つけてもらった俺の肌に合うクリームをつけて買った画材道具の整理を始める。
買った物は分かりきってるのにこうやって広げて眺める時間は本当に楽しい。
最近は稼ぎが良いからデパコスのLulu ROSEのリップを2つ買っちゃった。
先週に出た新色で最高に好みの緑と紫だったから買えて良かった。
後は安めの30色パレットに人肌用のマットタイプのリキッドファンデーション。
夏休みの課題用にラメ入りチークを2つ買った。
俺の描く絵は、大体が化粧品で描かれている。
発色が良いもの悪いもの、光沢感、マット感、全て企業が作ってくれているものを借りて俺は作品を生み出している。
俺は押入れにある道具箱の整理をしながら次の絵のアイデアを構想する。
今年の夏はなるべく仕事を入れないと学費がギリギリで今までより描く時間が減ってしまう。
けれど見に行きたい展示会があるし、学校の課題とは別にコンクールに出そうとしてる作品も描かないといけないから時間に限りがあって忙しい夏になりそうだ。
俺は道具の整理を終えてスケジュール帳を開き、念入りに夏休み明けまでの予定を分単位で決めていく。
すると携帯の通知音が聞こえ、メッセージが来たことを教えてくれる。
俺は携帯を開き、メッセージを確認すると愛海からだった。
『明日のクラス会出るか?俺は行くつもり。』
…クラス会?
そんなの聞いてないし、仕事が入ってるんだよな。
『ごめん、18時から仕事。』
『クラス会は昼からだから少し出れば?たまには息抜きしろ。』
んー…、でも金がなぁ。
『会費は?』
『2000円。酒呑まない奴は1000円で良いって。』
1000円か…。
5回分の食費をそこに投資して良いもんか?
『沙樹は?』
『さっき聞いたら来るって。』
2人がいるなら行くか。
『分かった。行く。』
『OK。
俺はお辞儀してるくまのスタンプを送ってやりとりを終える。
一って、
あの人、いつも遊んでる気がするけど、どこからそんな金が湧いてくるんだろう。
…一くんの作品はきっと楽しげな絵なんだろうな。
友達も多そうだし、顔も整ってるし、朝の早い沙樹よりも早く学校に来てるって聞くし、毎日が楽しくて仕方ないんだろうな。
俺は月が落ちる前に風呂にゆっくりと浸かり、体を温めてじんわりと汗をかく中、窓を開けて網戸で夏風を部屋に入れながら眠りについた。
→ 微睡
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