12:00
チャイムが鳴り、教室中の人が昼ご飯の話を始める。
「ひぃーとぉー。昼飯何にする?」
「昨日はラーメンだったから控えろよ。」
いいなぁ。
ラーメン食べたいけど、財布持ってないからとりあえず事務所に行かないと。
「夏、昼飯持ってきたか?」
沙樹と一緒に弁当箱を広げて俺の口にミニトマトを放り込む
名前は女の子っぽいけど、サーファーの息子で世界を父親と一緒に目指してるらしい。
夏「バイト先に財布忘れたから今から取りに行く。」
沙樹「昼飯代くらい貸すけど?」
夏「大丈夫。渡さないといけない物もあるから行かないといけないんだ。」
俺は8万円が入った小さいポーチを手に取って2人に手を振り事務所に走る。
昼休みは13:15で終わる。
往復30分で時間はまあまあギリギリなんだよな。
俺は駆け足で事務所に行き、エレベーターに乗って803号室に向かう。
[ピンポーン…]
インターホンを鳴らして店長が扉を開けてくれるのをしばらく待っていると、ゆっくりと扉が開いた。
店長「すまん、予約の電話対応してた。」
夏「大丈夫です。」
俺は事務所に入ってポーチごとお金を渡し、ロッカーの財布を取る。
店長「雑費引いて11万7千円な。」
ぽんと店長に昨日分の給料を貰い、金額を確認する。
これで思う存分、画材が買える。
夏「ありがとうございます。」
店長「今日は休みだよな。」
俺はお礼を言って、学校に戻ろうとすると店長が呼び止めた。
夏「はい。」
店長「フルで1ヶ月近く働いてくれてありがとな。」
と、店長がハンバーガーが入っているであろう袋をくれる。
店長「飯食ってないだろ?セット頼んどいた。」
夏「いいんですか!」
店長「No. 1にはしっかり食ってもらわないとな。」
夏「ありがとうございます!」
俺はお礼を言って中身のジュースが溢れないように早足で学校に戻りつつ、携帯で時間を確認する。
もう13時近い。
教室の予約は帰りに取るしかないなと、内心教室が取れないかもしれない焦りを感じながら階段を駆け上がり、教室に戻るとみんなご飯を食べ終えて各々自由時間を過ごしてる。
愛海「珍しいな、夏がハンバーガー買うなんて。」
と、沙樹と話していた愛海が俺が帰ってきたことに気づき、声をかけてくれる。
夏「店長がくれたんだ。」
沙樹「教室だと匂いが広がるから庭のベンチに行くか?」
夏「そうする。」
俺の昼ご飯のためだけに学校の中庭に向かってくれる沙樹と愛海。
俺はその事に感謝をしつつ、空いてる花壇の
近くには喫煙所と自販機があるからこの時間でも人が多くて賑わっている。
俺が昼ご飯を食べる中、2人は自販機で買ったアイスコーヒーとミルクティーを飲んでテストの結果について話し始めた。
2人とも座学の点数は良かったらしい。
俺はそんなに良くなかったので、今度教えてもらうことにした。
そういえば明日は実技の結果が出るけど、どうだろう?
テーマは梅雨だったけど、俺は青系統使わずに挑戦してみたんだよな。
沙樹「この“いぬい”って奴のセンス好きなんだよな。」
愛海「たくさん人とか物がごちゃついてんのになんかもの悲しげなんだよな。」
俺は沙樹が携帯で開いてる画面を覗き込む。
この学校に通っている在校生の作品が全て載せられているアプリで“いぬい”って子の作品を見てるらしい。
俺が通っている学校では全ての作品はペンネームで展示されていて、作品を雑念無しでフラットに見ることができるようにと言う学長の理念らしい。
作者がどんないかつい顔だろうと、ポップでキュートな感じで物を描いても、変に否定する人はいない。
この学校はその作品のみを見て感性を磨いてほしいらしい。
俺は沙樹の手にある携帯から“いぬい”の絵を見ると確かに愛海が言った通り、ごちゃごちゃした第一印象持ったけれど、しっかり見ると1人の男が他の物や人よりはっきりと描かれて孤立感が目立つように感じる。
夏「初めて見た。その人面白いね。フォローしとこ。」
沙樹「まだしてなかったのか。結構人気だぞ?」
愛海「俺はこいつ好き。“Sun”って奴。」
…あ、俺のことだ。
俺は食べるのが夢中になっているふりをして、2人の意見を聞く。
愛海「この人、いつも筆の使ってる感じしないんだよな。」
沙樹「…あー!この人ね。確かに筆にしてはベタ塗り感強いもんね。」
愛海「たまに指紋みたいな跡があるから手で描いてるのかもな。」
沙樹「この人も“いぬい”と負けず劣らず人気だね。」
そうなのか。
あんまりフォロワー数を気にしたことがなかったから知らなかった。
愛海「この乱雑さとテーマで1番似合いそうな色を絶対使わないってところが反骨感あって好きなんだよな。」
いつも側にいてくれる2人が言ってくれると、なんだか嬉しいな。
お礼言いたいけど、学校の規約上ペナルティがあるから自分が“Sun”と言えないのがもどかしい。
そんなことを思ってると予鈴が鳴り、残ったポテトを紙袋に入れて教室に戻った。
→ チャイムの音で
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