スーパー・ベィビィ

 光を通り抜けると暗闇の中だった。


 何も感じない、やり直しスイッチを押したはずだ、ここは何処だ?


 それと、私の体は手も足も顔も何もない、一塊の団子のような感じだ。

 時間が経ってくると私の体に変化が起こっていることが分かる。

 なにか物凄い速さで成長している。


 手が、足が、顔が、尻尾?エラのようなものまである。


「あれ、私は人だよね?」


「なんか違うものになるの?」


 その時声が聞こえる。


「あ~~~、あ~~、もしもし、聞こえまちゅか?」


 聞き覚えのある、「振り返りの世界」で会った幼児の声だ。


 その声は、返事が無いことも気にせず、続けて話しかけてくる。

「おばちゃん、聞こえまちゅか?」


 さっきの続きだ、なんか腹の立つ子だな……

「相変わらず失礼な子ね、『おばちゃん』じゃないわよ、涼子という名前があるの……」

「いや、これから”涼子”と付けてもらうんだから」


 そうすると、安心したような声で話しかけてくる。

「無事着いたようでちゅね、涼子おばちゃん、本当にボタンに選ばれるなんて奇跡でちゅよ」


「涼子おばちゃん……」

 いや、これから生まれる赤ちゃん涼子だぞ…それを”涼子おばちゃん”って……


「説明を聞いてなかったでちゅから、説明しておきまちゅけど、案内人の責任として見届ける必要があるでちゅ」


「困ったときに”質問、チャチャ”と呼んでくだちゃい」

「本当に無茶なんでちゅから」


 なんか自分だけトットと用事を言って、静かになった。


 いや、いや、”チャチャ”と言うのかい、覚えておくよ。


「”おばちゃん”は、そういう時には記憶力が良いんだよチャチャ坊」


 ところで学校の授業を思い出した、人の発生という段階で人はまるで進化をなぞるかのように成長していく。


 そう、まずは卵子という単細胞。

 だんだん複雑な多細胞になって、魚のようになり、尻尾とエラのある両生類みたいになってネズミみたいになる。


 エラがあることに驚いたが、そう今は成長の途中段階なのだ。


 それと神経系が成長してくると段々感覚が分かるようになる。


 暗闇で何もない世界から、世界が広がって行く。


 今私の居る世界は「狭い袋の中」に水に浮かんでいるようだ、そうか、これは母のお腹の中だ。


 温度が分かるようになると、とっても心地よい暖かさ伝わってくる。

 音が分かるようになると、工事現場のような騒音というか振動と低周波音……

 これは心臓や血液が流れるお腹の音だ。


 残念だ、意識と脳に乖離がある。


 脳がまだ認識できないものを私(意志)へ伝え切れてないのだ。

 よって、なにか分からないが”振動”や”音らしき”ものがあると言うことのみ分かる。


 毎日の自分の成長は驚きの連続であり、外部からの刺激に関しても私を飽きさせることなく数か月がアッという間に過ぎ去ったのです。


 生まれる日、それは突然だった私を包んでいた水が無くなり狭いところを通って眩しい光の世界に出た。


 パンパカパーン!!

「おぎゃあ~~~~~」


 元気な泣き声で私の誕生は世界に伝えられた。


 覚えている 3月21日 私は生まれた。

 この後、”涼子”と名付けてもらう、A型の女の子。


(ふふふふ、覚えている、覚えているぞ、楽勝人生の始まりだ!!)


 うん? ”楽勝人生”と思ったのだが、少し違うようだ。


 活動限界=時間切れが早い、私の脳は、まだ経験したことも無い物凄い量の情報を処理しているようだ。


 そう、私は一度経験したはずだが、この体(脳)にはそんな記憶はない。


 外から見ると赤ちゃんは暢気そうだが、とんでもない、脳は怒涛の働きをしている。


 例えば、音や光、温度などの外部刺激、その上で体を動かす練習(手足とか動く範囲で動かし)泣く、顔に表情筋の運動、その結果として外界の反応が得られる。

 つまり外界へ自分が起こす影響を含め外界から得られる刺激の分析をしている。


 そして、もの凄く「お腹がすく」、母のおっぱいは完全食品だが飲んでも数時間しか持たない。


 そして疲れているので、飲むとお腹がいっぱいなるので”寝る”。

 眠っている時間とは、脳は処理した情報を脳に定着させている。


 図示すると、3時間毎にこの処理の繰り返しているようです。


 外界の刺激を処理 → お腹がすく → おっぱいを飲む → 寝る → 定着処理 → 外界刺激の処理

 (なお、たまに排出処理……)

 

 意志である私への情報伝達を見る限り、脳は物凄い速さで進化しているようだ。


 でもお母さんは偉いな、おばあちゃんも家に来て手伝ってくれているけど3時間毎だよ。

 信じられない、忙しすぎるし、お母さん寝る時間無いんじゃない?


 さっき気が付いたのだが、脳は物凄いスペックを持っており、その能力を取捨選択をしている。

 しかしこの赤ちゃんの時期に、使わない機能は捨ててしまっているようだ。


 勿体ないことだが物凄い臭覚や超遠視とかあっても、その能力が、今必要かと言われると、今は役に立たないと判断しても仕方がないかな?


 キット、そういう環境にある赤ちゃんはそういう能力を残しているんだろう。


 何とかこの体の脳が私の意志とリンクできるまでは、楽勝人生はなさそうだ……


 それより母や父の顔を早く見たいな。

 まだ形、色の認識力が弱いのと、目の神経の使い方なんかもあり、実は見えているのだがぼんやりしていて見えているものが何か認識できない。


 ただ、ある形のぼんやりしたものが「おっぱい」で、あるぼんやりした優しい丸いものが母の目だと言うことが分かっている。


 無茶だと思ったが体が見えているもの全てを。意志である私に直接伝達させてみた。

 物凄い量の情報が流れる、その中で一瞬だけピントがあった母の顔が見えた。


 若い、母だ、そう言えばママと呼んでいた。

 (ごめんねママそういえば私は高校生で死んじゃったのよね、今頃……)


 それより、母のおっぱいが凄いことになっている。

 母はそんなにおっぱいが大きな方ではないのだが、流石に子供を産んだ後は凄い、青筋が立つほど膨らんでいる、痛そうだった。


 さてと、落ち着いて、これからのことを思い出すことにしょう。

 

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