第19話 戦乙女と菩薩と最強 その2
――そうして、魔神の迷宮にもう一つの異物が紛れ込むことになったのです。
それから時は経ち、菩薩は迷宮の奥へ奥へと進みました。
迫りくる魔人を倒しながら、傷一つ負わずに。
菩薩は階層を一つ進む度に、「やはり自分より強い者には会えないのかもしれない」と悲しい気持ちになっていきました。
そうして彼が迷宮の深層域へと差し掛かった時、目の前に――甲冑を身に纏った純白の翼を携えた少女が現れました。
「……武装天使ですか?」
銀髪の少女は首を左右に振ってこう言いました。
「私は天使ではありません。私は死の使い……ヴァルキリー」
「死の使い?」
「ええ、というのもこの迷宮の存在意義が3つあります。一つ目は魔神達の娯楽。そしてもう一つはエネルギーの摂取。そうして最後の一つは――」
そうしてヴァルキリーの説明を聞き終えた菩薩は大きく頷きました。
「なるほど。確かにその場所でならば……私は私よりも強い者に会うことができるかもしれない。しかし、踏破率ゼロというのはそういう意味もあったのですね」
「そのとおりです。それでは共に行きましょうか。迷宮の外へ――」
――そして200年の時が経ち――セオ=ピアースが迷宮へと降り立ちました。
サイド セオ=ピアース
とある洋館の一室で、セオがうんざりした口調でこう言った。
「……で、次は俺にどんなゲームをさせようというのだ?」
全身黒づくめに黒ハットの男はニヤリと笑う。
「ふふ。今回のゲームで賭けるのは……距離です」
「距離だと?」
「ええ、それもミリでの単位でのね……」
「ふむ、どういうことだ?」
そこで黒ハットの男は部屋の片隅に置かれた器具を指さした。
「見たことがあるな。確かあれは食肉を切り分ける……」
「ええ、ミリの単位で肉を少しずつそぎ落としていく器械です」
「それで、賭けるというのは?」
「ですから、距離ですよ。始めは右足から始まり、左足、右手、左手……それぞれ爪先から始まります。そうして最後は胴体の距離を賭けることになる。骨ごと切り取れるので、輪切りという形ですね」
「なるほどな。しかし、どんどんと悪趣味の度合いが酷くなっているが?」
「魔神の最初の階層で聞いたでしょう? そしてここにいるということは……貴方は先の場所を行くことを拒否し、魔神との戦いを選んだと言う事です」
「先の場所?」
と、その時――室内に一人の男が入室してきた
「何者なのだ貴様はっ!? あびゅしっ!」
黒ハットの魔神の頭は、一撃の下に爆裂四散した。
ドサリと魔神の倒れる音と共に、男はセオに向き直る。
「貴様は? 新手の魔神か?」
「グギュ……オ、オ……オデ……ボ、ボ、ボ、ボサ……菩薩……タベタ……タベタイ……ノウミソタベタイ……ナイゾウタベダィ……オマエ……ウマソ……」
菩薩と名乗った男にはかつての面影はなかった。
かつて三千世界の女の誰しもを虜にすると言われた美貌は完全に消え失せている。
目は血走り、耳と鼻はもぎ取られ、頬の半ばまで裂かれた口からは涎を止めどなく垂らしていた。
が、しかし、痩せた手足には未だに筋肉は残り、半ば白目を剥いた狂気の眼には――飢えた狼の如き眼光が残っていた。
それを確認したセオは楽し気に笑う。
「ハハっ……確かに貴様は魔神なんてモンじゃねえよな」
そしてセオは――この迷宮で初めて武道の構えを取った。
「貴様はもっと……楽しそうなモンだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます