第17話 魔神VS地上最強の男 ~たたいて・かぶって・ジャンケンポン!~ その2


 そして200年後。


 迷宮中層域に一人の男が踏み入った。



 ――言うまでもなく人類最強のセオ=ピアースである。




「さて、挑戦者よ……ここにあるのは神器となる」


「ふむ。神器だと?」


 草原に立つ二人。

 片方は上半身裸のムキムキマッチョ。

 もう片方は筋骨隆々の肉体に牛の頭を持つ、ミノタウロスとでもいう風な格好の男となる。


 二人の立つ右脇には、それぞれの台が用意されていた。

 そうして、その台にはそれぞれ3組の剣と盾が並べられている。


「まずはこれがイージスの盾とエクスカリバーだ」


 牛頭が指差す先には神々しく銀色に輝く剣と盾がある。


「ふむ……確かにこれは丈夫そうな剣だな。俺でも本気を出さないと折れそうにない」


「……どういうことだ?」


「剣というのは筋力トレーニングの結果を試すために、試し折りをするものだろう?」


「何言ってんだコイツ?」的に魔神は小首をかしげる。


「まあ良い。次の説明だ。これについては神器ではなく通常武器となるオリハルコンの剣と盾だ」


 再度、牛頭が指差した先には、やはり1対の剣と盾があった。


「オリハルコン……か。本当に最近はオリハルコンと縁があるようだ」


「そして最後の一組の剣と盾は木の剣と盾だ」


「なるほど理解した。そうして貴様らは今度はどのようなくだらんゲームを俺にさせるつもりなんだ?」


「ルールは単純だ」


 そうして牛頭の男は相対する二人の真ん中に置かれたテーブルに顔を向けた。


「赤と青のカード……カードゲームか?」


「そのとおりだ。手にとって見るが良い」


 セオがカードを手に取ると、赤のカードには3種類の剣、そして青のカードには3種類の盾が描かれていた。


「攻撃と防御側に分かれ、攻撃側が赤のカードを取る。そして防御側が青のカードだな」


「ふむ。それで?」


「狙いは頭。それぞれに描かれたカードのとおりに武器と防具を持って、攻撃と防御を行う」


「なるほど。確かに単純明快だ。俺は分かりやすい方が好きだぞ」


「ああ、だろうな。貴様は脳筋っぽいからな。ともかく……説明は以上だ」


 そこでセオは不審げに小首を傾げる。


「……本当にルールはそれだけなのか?」


 気づいたのか?

 と、魔神は嬉しそうに微笑んだ。


「ああ、それだけだ」


「……時間がかかるのは俺は嫌だぞ? 後から別ルール追加でやっぱり時間がかかるゲームですとか言われても付き合いきれんからな」


「……」


 やっぱり気づいてないのかよ、と魔神は残念そうにため息をついた。


「貴様についてはここで終わりかもな。よくぞその程度の洞察力でここまで生きてこれたものだ」


「ともかく、早くゲームを始めよう。あと、もう一つ疑問がある」


「何だ?」


「お前は魔神なのだな? これまでのピエロや金髪のような連中とは桁違いの力を持つのだよな?」


「ああ、そのとおりだ」


 そうして、セオはニヤリと笑ったのだった。







 そして――初手。

 攻撃側となった魔神のオリハルコンの剣が、セオの木の盾の向かって打ち下ろされた。

 フフンと笑いながら、魔神の剣がセオの木の盾をサクリと切り裂く。


「まさか一回目の一撃で終わりだとは思わなかったぞ挑戦者よ」


 そのまま魔神の剣がセオを切り裂いて――


「……何?」


 背後から気配を感じた魔神は咄嗟に振り向いた。

 すると、そこには確かに切り裂いたはずのセオがいたのだ。


「確かに貴様は俺が今しがた切り捨てたはずだ」


 そうしてセオはニヤリと笑ってこう言った。


「――残像だ」


 その言葉を受けて、二人はしばしの間お見合い状態になった。


「……」


「……」


「……」


「……え?」


「だから、残像だ」



 そのままセオは再度、中央のテーブルに戻る。


「次は俺が攻撃側だよな? 早く戻ってカードを引け」


「あ、はい……」


 二人はカードを手に取り、めくりあうと同時に動いた。


 魔神はイージスの盾、そしてセオは――


 ――木の剣


 魔神はイージスの盾を頭上に掲げて高らかに笑った。


「木の剣ではイージスの盾の防御は貫けぬぞっ!?」


「ああ、木の剣では無理だろうな」


 セオは木の剣を取って、そして――捨てた。


 そのままイージスの盾に向けて繰り出されるのはセオの――


 ――チョップだった



「なっ!?」



 ――ズギョトラパションっ!


 冗談みたいな音がなってイージスの盾が変形した。


 そして、変形して変形して変形して――


 盾ごと、セオのチョップが魔神の頭にメリこんだ。



「ぐぎょはああああああっ!」



 牛頭の鼻のところまで、盾チョップがメリこんだところで魔神は脳ミソを撒き散らしながら、そのまま後ろに綺麗に倒れた。


「……」


 倒れる魔神。

 血濡れの自分の右手を見て、セオは自分に言い聞かせるようこう言った。



「まだ……期待できるはずだ。最初に出てくるのは最弱のはずだ……。一応は今回は身体能力強化も全力で、本当の本当の全力の一撃だったし……。と、と、とにかく……頼むぞ魔神たちよ……っ!」



 そうしてセオは――



 ――本来ならこの階層で明かされる大事なことを……聞くこともないままに次の階層へと進んでいったのだった。

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